批判高まる入管法改正案~技能実習制度の廃止を
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11月27日に衆議院を通過した外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法(入管法)改正案。28日から参議院本会議で審議入りしたが、外国人の新たな人権侵害につながる「欠陥法案だ」だと批判が高まっている。
そもそもこの法案は「人手不足を解消したい」という経済界の要望を受けて成立が目指されているが、外国人の慢性的な低賃金状態をより拡大する「第2の技能実習制度」だと危惧されているのだ。
11月21日に参議院議員会館で行われた院内集会「今こそ、包括的な移民政策を!-政府が進める『新たな外国人材の受入れ』を問う」(主催:移住者と連帯する全国ネットワーク、以下、移住連)には、衆参の両院議員、専門家や外国人労働者が多数参加し、制度の問題点が指摘された。
日本政府が「外国人材」を受け入れるために法案を制定した経緯はこうだ。
政府は、2018年6月15日、経済財政諮問会議の答申を経て、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(以下、「骨太の方針2018」)を閣議決定し、この中で就労を目的とする新たな在留資格を創設し、外国人労働者の受け入れ拡大を表明した。これを受け、同年11月2日、新たな在留資格として、「特定技能1号」と「特定技能2号」を創設し、入国管理局に代えて「出入国管理庁」を創設することを内容とする入管法改定案が閣議決定され、第197回国会に提出された。
政府は19年4月からこの2つの在留資格に基づく外国人の受け入れを始め、2025年までに34万人の外国人労働者を受け入れるとしている。受け入れ分野については、当初は農業、建設、宿泊、介護、造船の5分野だったが、その後は外食や飲食料品製造が加わり、14分野に及ぶ可能性が示されている。
これまで日本政府は、専門的・技術的分野以外の、非熟練労働(いわゆる「単純労働」)としての外国人労働者は受け入れないという方針を維持してきた。しかし、実際には技能実習生や留学生といった、本来は就労を目的としない在留資格を持つ人たちが非熟練労働の分野に就労し、日本経済を支えてきた経緯がある。
新たに創設される 「特定技能1号」とは、「相当程度の知識または経験を要する技能を要する業務に従事する活動」、
「特定技能2号」とは、「熟練した技能を要する業務に従事する活動」とされており、「1号」には家族帯同も認められていない。
5年もの間、家族と離れて暮らすということ自体、人道的に問題があるとして移住連などは廃止を求めていた。
さらに、今国会で法案が審議されるなかで法務省が提出した資料「失踪技能実習生の現状」の中に多くの誤りがあることが判明し、批判の声が高まっている。
この資料は、17年度中に退去強制手続きを受けた外国人中、「実習実施者等から失踪した技能実習生」に対して行われた聴取の結果に基づいたものだ。
資料では、「失踪の原因」について、「①技能実習を出稼ぎ労働の機会と捉え、より高い賃金を求めて失踪するものが多数」「②技能実習生に対する人権侵害行為等、受け入れ側の不適正な取り扱いによるものが少数存在」等と報告していた。
しかし、その後、報告の基礎資料となった聴取票には、「より高い賃金を求め」たという項目が存在せず、他にも多くの数値が誤っていたことが判明した。低賃金を理由に失踪する労働者は最低賃金を下回る賃金しか支払われず、休日のない連続勤務を強いられたため離職するケースも多い。この実態を隠そうという意図があったという批判は免れないだろう。
この日の集会で同法案の問題点をまとめたアピールが発表されたので、ぜひ読んでいただきたい。
http://migrants.jp/wp-content/uploads/2018/10/ff84091fb1cd117b41ec2a7a261dcc8c.pdf
日本にはアジアの国々から多くの労働者が入ってきているが、遡ると日本の植民地支配を受けた朝鮮半島からも多くの労働力を搾取してきた。歴史的に見ると、この時代への反省がないからこそ、在日朝鮮人への差別がいまだ続いているのだ。外国人といえば、その労働力として安価に利用しようという視点しか出てこない政策の乏しさ…。問題山積みの法案、施行された後の大混乱が予想される。(瑛)
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「今こそ、包括的な移民政策を!」11.21院内集会アピール
〜外国人労働者が「人間」として暮らすために〜
「『単純労働者』は受け入れない」「移民政策ではない」。もう建前は十分だ。その建前の陰で、外国人労働者・移民、外国にルーツをもつ人びとの権利や尊厳がないがしろにされてきた。
「外国人が増えると治安が悪化する」「日本人の雇用条件が悪化する」「外国人が日本の保険制度にただ乗りをしている」。もうデマは十分だ。そうして日本人と外国人の対立が煽られ、多様な人びとがともに暮らすこの社会の現実は見えなくさせられてきた。
外国人技能実習生の過酷な労働実態に再び注目が集まっている。周知のように、技能等の移転を通じた国際貢献を目的とする外国人技能実習制度は、実際には、安価な労働力を受け入れる経路として利用されてきた。
この制度は、技能実習生に家族の帯同や転職の自由を認めないことによって、「労働力」が「人間」として暮らす局面を最大限制限している。それは「『単純労働者』は受け入れない」「移民政策ではない」という建前を維持するために作り出され、維持されてきた制約ともいえる。
しかし、今明るみになっている技能実習生の数々の人権侵害は、結局、この制度が、彼・彼女らの労働者としての権利を制限し、生活のあらゆる部分を管理下に置くことによってしか維持され得ないことを示している。つまり「人間」を「労働力」としてしかみない制度は、「人間」としての暮らしを制限することによってしか成り立ち得ないのだ。そうして、「人間」としての移民を「労働力」としてしか扱ってこなかったのが、日本の過去30年間の、いわば「移民政策なき移民政策」である。
今、ようやく、政府から外国人労働者を正面から迎え入れる案が出されたことを私たちは歓迎する。しかしその中身はまたもや、移民を「労働力」としてしかみないものである。
今、私たちは岐路に立っている。過去30年の「過ち」を再び繰り返すのか。それとも現実を直視し、「人間」が「人間」として暮らすことのできる社会をともにつくる方向に踏み出すのか。
私たちは、「人間」が「人間」として暮らすことのできる社会を求める。なぜなら外国人労働者・移民、外国にルーツをもつ人びとは、すでに「ここにいる」からだ。彼・彼女らは「人間」としてここにいる。国家がいかにコントロールしようとしても、社会がいかに「労働力」として扱おうとしても、この厳然たる事実は変わらない。
とするならば、彼・彼女らが、「人間」として暮らせるための権利と尊厳が保障されなければならない。この原則に立ち、現在の政府案に関し、以下のことを求める。
1. 多くの人権侵害を生み出して来た外国人技能実習制度を新たな受け入れ制度への入り口とはしないこと。技能実習制度は直ちに廃止すること。
2. 「特定技能1号」「特定技能2号」の区別をやめ、就労可能な他の在留資格と同じように、はじめから家族帯同が認められ、永住につながり得る在留資格を設けること。また新しい在留資格による受け入れは直接雇用によるものとし、技能実習制度の構造に酷似する受入れ機関や登録支援機関などの仕組みは排除すること。さらに外国人労働者に、日本人と同一の賃金を実質的に保障するための体制を整備すること。
3. 「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の検討にあたっては、管理強化の体制を全面的に改めること。そのためには、出入国管理を司る法務省には司令塔的役割を与えないこと。内閣府もしくは専門的省庁がその役割を担うこと。
4. 外国人労働者が社会の一員として暮らすための体制を整備すること。すなわち家族帯同、日本人と平等の社会保障(健康保険、年金等)、日本語教育、子どもの教育など、生活者としての権利を実質的に保障すること。非正規滞在者については、彼・彼女らの日本社会とのつながりを考慮し、正規(合法)化を認めること。
5. 国籍差別や人種差別の実態を踏まえ、移民基本法、差別禁止法を制定し、移民の権利保障の体制を整えること。
以上
2018年11月21日
特定非営利活動法人
移住者と連帯する全国ネットワーク
院内集会参加者一同