「差別に加担、差別を助長」―大阪補助金裁判、最高裁決定を受け、学園側が記者会見
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学校法人「大阪朝鮮学園」が2012年9月に大阪府と大阪市を相手取り、府、市内の朝鮮学校に対する補助金を不支給とした処分の取り消しと交付の義務付けを求めた裁判(以下、大阪補助金裁判)で、最高裁が11月28日付けで朝鮮学園側の上告を退ける決定を下したことを受け、同学園は12月26日、大阪市内で記者会見を開き、子どもたちの学ぶ権利を保障し、補助金交付の再開を含む適切な措置をとることを求める声明を発表した。
会見には、丹羽雅雄・弁護団長、大阪朝鮮学園の玄英昭理事長、「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」の藤永壯共同代表(大阪産業大学教授)、大阪オモニ連絡会の金亜紀さんが参加した。
2010年3月、当時の橋下徹大阪府知事は学園に対し、「特定の政治団体と一線を画すこと」「特定の政治指導者の肖像画を外すこと」など朝鮮学校の自主性を踏みにじる不当な「4要件」を補助金交付の条件として提示した。その後、学園側が対応し、教室の肖像画をはずさなかった高級学校以外には10年度の補助金が交付されたが、12年3月、府は一部メディアが取りあげた朝鮮学校生徒たちの平壌「迎春公演」出演を口実に挙げて11年度分の補助金不支給を決定。これにならうかのように市も不支給の決定を下した。
これを受け、12年9月に、同学園は府と市を相手取り提訴。17年1月26日に一審判決が下された。同判決で大阪地裁は、補助金の不交付は教育基本法や私立学校法に違反しているという原告の主張に対して、それらの判断は行政が持つ「裁量の範囲内」と認め、不交付の処分に違法性はないとし、原告全面敗訴の不当判決を言い渡した。
原告側は17年2月に控訴したが、18年3月20日、高裁は原告側の控訴を棄却した。二審判決は、行政の広範な裁量権を認める一審(地裁)判決以上に行政に追随するものとなった。
高裁判決を受けて学園側は今年の5月に上告理由書、上告受理理由書を提出したが、11月28日、最高裁第2小法廷は上告を棄却し原告敗訴が確定した。
記者会見では、大阪朝鮮学園、弁護団、大阪府オモニ連絡会、「連絡会・大阪」の4者がそれぞれの抗議声明を発表した。
同学園の玄理事長は、「最高裁の決定は、地裁及び高裁の『不当判決』を追認したものであり、許しがたいものである」と指摘。日本政府、司法、行政は、在日朝鮮人や朝鮮学校の歴史的経緯を認識し、民族差別を是正することを強く求めた。
●弁護団声明、「マイノリティの教育権が本質、裁判所は向き合わなかった」
丹羽弁護団長は弁護団声明を発表(巻末に全文)。「本件裁判の本質は、子どもたちへの教育への権利、特に歴史的経緯の結果が今につながって存在している民族的マイノリティの子どもたちの教育への権利の制度的保障であって、教育への権利の尊重・保護と充足に必須である母国語教育の制度的保障の後退が問われている裁判だった。一審、二審とも裁判所は最も重要な本質とまったく向き合おうとしなかった」と厳しく批判した。
さらに、本裁判の審理に問題点について、「本件を判断する基本的枠組みを、補助金は『贈与』契約であるとの民法上の性質論に矮小化し、本件補助金を含む私学助成が、教育基本法、私立学校法、私立学校振興助成法を根拠とし、学校活動を支える実質的制度的保障の具体化であるとの認識を十分に持たないまま、行政庁が支給要件自体を変更したことの是非を問題とせず、その『要件』該当性の事後的判断をもって足れりとする短絡的な判断を行ったもので、出発点において根本的に誤っている」と指摘。
この裁判の事実経過において最も重要な本質が、地方自治体の首長とその政治勢力に直接影響された案件であり、変更された「要件」自体も不合理で矛盾に満ちたものであったにも関わらず、「争点への真っ当な洞察を避け」、「『行政救済』を意図した」として、司法府の姿勢は、「差別に加担、差別を助長し、被害者をさらに傷つけるもの」だと不当性について厳しく指弾した。
「これは朝鮮学校の問題だけでなく、日本の教育の在りかたを考える社会的な問題だ。共生社会にむけて日本社会が教育の枠組みをどう作っていくのか、民族的マイノリティの子どもたちのアイデンティティをどう育むのかが問われている」(丹羽団長)
オモニ連絡会は抗議声明で、「公正公平な判断により行政の過ちを正すべき司法が、最後まで行政の差別的措置から子どもたちを救済しなかったことに、強い憤りと深い悲しみを禁じえない」としながら、司法は朝鮮学校に通う子どもたちの姿を直視せず、大阪補助金裁判の一連の判決・決定は、国際的な人権感覚からも大きくかけ離れたものだと非難した。
また、国連の各種人権条約委員会から日本政府や地方自治体による朝鮮学校差別の是正を求める勧告が出され、国際的な非難の声が高まるなか、来年1月に行われる「国連子どもの権利委員会」の日本審査に合わせて、朝鮮学校に子を通わせる母親(オモニ)たちの代表団を派遣し、大阪からも代表が参加することについて言及した。
「連絡会・大阪」の声明を発表した藤永壮共同代表は、日本政府および地方公共団体による助成制度からの朝鮮学校排除は一層拡大していると非難した。
藤永代表は、
▼16年3月に文科省が地方自治体に朝鮮学校への補助金交付見直しを求める「3.29通知」を送付、
▼16年度より幼児教育無償化を進めている大阪市が朝鮮幼稚班を各種学校という理由で対象から除外、
▼19年10月に幼児教育・保育の無償化を予定している日本政府も同様の理由で朝鮮幼稚班を対象外とする方針にある、といった実例を挙げ、大阪府下および全国の地方公共団体の補助金の交付再開、高校無償化裁判における最高裁での再逆転勝訴に向けてたたかい抜く決意を表明した。
集会では、大阪の朝鮮学校関係者、保護者、支援者が一体となって不当な行政・司法に抗議し、補助金再交付や高校無償化制度適用にむけ、改めて運動を進めていく決意を表明する予定だ。(全)
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弁護団の声明全文は以下のとおり。
弁護団声明
2018年11月28日、学校法人大阪朝鮮学園が大阪府及び大阪市を相手方として行った、学校法人に対する補助金の打ち切りを違法とすることを求めた裁判について、最高裁判所は、大阪朝鮮学園の上告を棄却、上告受理申立を不受理とする決定を行ったが、この決定を含む、一、二審を含めた司法府の姿勢に対し、断固抗議をせざるを得ない。
本件裁判の本質は、子どもたちの教育への権利、特に歴史的経緯の結果が今につながって存在している民族的マイノリティの子どもたちの教育への権利の制度的保障であって、教育への権利の尊重・保護と充足に必須である母国語教育の制度的保障の後退が問われている裁判ということであった。しかるに、一審二審とも、裁判所は、この事柄の最も重要な本質と全く向き合おうとしなかった。
その結果、本件を判断する基本的枠組みを、補助金は「贈与」契約であるとの民法上の性質論に矮小化し、本件補助金を含む私学助成が、教育基本法、私立学校法、私立学校振興助成法を根拠とし、学校活動を支える実質的制度的保障の具体化であるとの認識を十分に持たないまま、行政庁が支給要件自体を変更したことの是非を問題とせずその「要件」該当性の事後的判断をもって足れりとする短絡的な判断を行ったものであり、出発点において根本的に誤っている。
加えて、国際人権法、すなわち、社会権規約、自由権規約の差別の禁止に関する条項、人種差別撤廃条約、児童の権利条約の各定め、及びそれら各条約委員会による度重なる勧告がなされている事実を、意図的に無視あるいは曲解し、国際人権基準に耐える判断との視点も全く放棄されている。
その上で、本件固有の事実経過において最も重要な本質が、地方自治体の首長とその政治勢力に直接影響された政治案件であったこと、変更された「要件」自体も不合理で矛盾に満ちたものであったこと、「要件」変更が補助金申請の後に事後的になされた手続的瑕疵の大きいものであったことといった、本来重要である争点への真っ当な洞察を避けた、「行政救済」を意図したと言わざるを得ない判示内容であった。
このような判決の内容、また司法府の姿勢は、差別に加担、あるいは差別を助長し、被害者をさらに傷付けるものであることには思いを致していないものであり、極めて不当である。
また、裁判所は学校現場を訪れもせず、最高裁に至っては誰の声すら聞かずに決定を行ったもので、官僚司法そのものであると言わざるを得ない。
今回の最高裁決定は、そのような地方自治体の首長及びその政治勢力の判断を結論として追認したものにすぎず、本質及び重要な争点について判断をしていない、それらの判断を避けたもので、事例判決にすぎない、また、後年の歴史による検証に到底耐えうるものではないものである。今回の最高裁判所の判断によって、本件に関する事柄の本質は何ら変わるものではないことを宣言するとともに、大阪府・大阪市が子どもたちの教育への権利について改めてきちんと認識し、補助金交付の再開を含む適切な措置をとるように、強く要請するものである。
2018年12月20日
大阪府・大阪市の補助金不交付処分等取消請求事件弁護団