自分が暮らすまちだから―川崎で市民学習会
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神奈川県川崎市で、「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」が主催する市民学習会「実効性のある条例制定へ 前へ、前へ。ともに。」が3月8日に行われ、約200人が参加しました。
同ネットワークが結成されたのは16年1月。日本各地で広がっていた在日コリアンに対するヘイトスピーチが川崎でも頻繁に起こり、生活を壊された市民たちが立ち上がって声を集めました。これまでの活動はHP(https://kawasakiar.tumblr.com/)に記録されています。
今回の学習会は、川崎でもついに差別を禁止する条例を作ろうとの動きが進むなか、市民たち自身の力で、より実効性のある内容にするため学びを深めようとの趣旨で持たれました。
また、川崎市では、市民の地道な行動によって2017年11月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく『公の施設』利用許可に関するガイドライン」というものが策定され、18年3月末から施行されました。これは名前の通り、川崎市にある公の施設で差別的な集まりを持つことを禁止するため、基準となるガイドラインを設けるというものです。
しかし、このガイドラインは適正な運用がなされていないとして、ネットワークを中心とした市民たちは多くの課題を指摘しています。学習会では、この内容についても併せて紹介されました。
はじめに司会があいさつ。「差別を禁止し、終了させるための実効性のある条例を作りたいという思いで何年間も活動してきたが、やっとその努力が実るようになってきた。来週の月曜、川崎市議会に条例の骨子案が提出される。私たちは川崎市にいい条例ができるように全力で応援し、より実効性のある内容にするため、学んでいかなくてはいけない」と呼びかけました。
続いて市議会議員らによるあいさつがあり、それぞれにより良い条例策定のため尽力していく旨を話しました。
↑飯塚正良議員
↑堀添健議員
↑片柳すすむ議員
応援メッセージ(書面)の紹介のあと、ゲストによる学習が始まりました。
精神科医の香山リカさんは、反ヘイトスピーチの活動に携わるようになったきっかけを話したあと、精神科医としてこの問題とどう関わっていけばよいか、自分なりの考えをのべました。
香山さんが、人種差別団体である「在特会」の排外デモを初めて見たのは2013年。まるで映画の撮影のような、現実に起こっていることとは思えないほどひどい実態に驚きながら、その後も在特会の動きをおっかなびっくり注視していたそうです。本格的に抗議を始めたのは14年の秋。その年の夏、札幌市議会の金子快之議員が自身のTwitterに「アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね」と投稿したのを見て、「民族の否定とはどういうことだ」と怒りを持ちました。
香山さんは北海道出身で、アイヌルーツを持つ地元の人たちがSNSで自分の民族の文化を楽しそうにシェアするのも見ていました。金子議員の発言のあと、その人たちが萎縮していくのをリアルタイムで感じて居ても立っても居られず、民族差別に抗議する意志を表明したと話しました。
香山さんはまた、排外デモをする人々がニコニコしながらヘイトスピーチを吐くようすを見て、「非常に娯楽的。恍惚感や高揚感が訪れて、依存状態になっているのでは」と感じたと言います。最後に、「社会の中で、人権や心身の健康を阻害するような恐ろしいことが起きている。被害者の実態、加害する側の原因、ヘイトスピーチの後ろにある病理的な背景などについて、精神科医という立場で関わっていかないといけないと思う。市民や行政だけでなく、専門家をはじめとする色々な分野の立場から包囲網を作り、ヘイトや差別のない社会を作っていけたら」と思いをのべました。
香山さんによる学習のあと、ふたたび応援メッセージがありました。4月に市議選に立候補する後藤まさみさんは、「3歳のときに父が亡くなり、母が在日コリアンの方が経営する焼肉屋の事務をして生計を立ててくれた。小さい頃からそこのハンメやオモニたちにとてもお世話になった。そうした経験からも、ヘイトスピーチや民族差別を絶対に許さないという思いがある。皆さんの思いを市政に反映させていきたい」と話しました。
県議選候補の岩田サヨ子さんは、「桜本に長く住んでおり、川崎協同病院で看護師として務めてきた。お金のあるなしや国の違いによって差別があってはいけないと、平等な医療を目指して続けられてきた病院だ。45年間そこで勤めた。地域でも今後、同じ理念を持って活動していきたい」とあいさつしました。
次に、1999年から国立市議会議員として活動している上村和子さんが講演をしました。上村さんは、4月に施行予定の「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」制定のために長年、地元で尽力してきました。この条例は、人種、皮膚の色、民族、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、障害、疾病、職業、年齢、被差別部落出身その他、経歴などを理由とした不当な差別を行ってはならないという、差別を包括的に禁止した都内でも初の条例です。
上村さんが合言葉にしているのは“ソーシャル・インクルージョン”(すべての人を社会的孤立や排除から守り、社会の一員として包み支え合うこと)。この理念をもとに条例制定まで活動してきた内容について振り返りました。その間には、国立市からの朝鮮学校児童生徒補助金が打ち切られそうになる事件や、被差別部落出身者への連続大量差別ハガキ問題など、特定の民族や出身者に対する行政的、民間的な差別とのたたかいをはじめ、多くの紆余曲折があったそう。「朝鮮学校の補助金を廃止させたら、私は議員として加害者になると思った」という上村さんの言葉が胸に響きました。
上村さんは、国立市の場合、▼人権感覚のある首長がいたこと、▼職員や議会にもやる気があった、▼当事者が頑張っていた、▼学識者が力を貸してくれた―という4つの条件があって条例制定に至ったと話しました。
上村さんのエールを受けたあと、「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」事務局の崔江以子さんが発言。条例制定に向けて進んできたこれまでの経緯を説明したあと、「公の施設」利用に関するガイドラインの課題についても改めて話しました。このガイドラインは、▼差別的言動が行われる可能性が高いこと(人種差別要件)と▼施設の安全な管理に支障が生じる事態が予測されること(迷惑要件)の二つを同時に満たしたときに適用されるとされています。しかし、このままだと確信的に差別扇動を繰り返している人には抜け道を与えてしまいます。実際に川崎市では、そういった性格の集会において、一部の参加者から「ウジ虫、ゴキブリ、日本から出ていけ」というヘイトスピーチが出た例がすでに発生しています。崔さんは、ガイドラインの改善も引き続き訴えていく必要があると伝えました。
「さあ、いよいよです。来週月曜日の10時から、川崎市議会文教委員会で条例の骨子案が提出されます。私たちの代表である委員たちが、私たちの条例を審議します。しかし、特別な人たちだけが条例を決めるのではなくて、私たち市民は議員さんを応援することで参画していきましょう」。崔さんは、自分たちが暮らすまちは自分たちの手で守ろう、作っていこうと呼びかけました。
同時に、条例制定に向けてのスケジュールも共有されました。夏には市民たちの意見を聞くためのパブリックコメントも実施されます。これについても崔さんは、「行政がなにか施策をしようとすると、必ず相反する考えを持つ人たちが反対の電話をします。それに対して『頑張れ! 私たちがついている!』と励ましましょう」と再三強調しました。
「学びを力に、前へ、前へ。頑張っていきましょう!」
崔さんの発言に続いて、「反差別相模原市民ネットワーク」の田中俊策事務局長が緊急アピールをしました。同ネットワークは、人種差別と排外主義を掲げる政治団体「日本第一党」の桜井誠党首が相模原市内で講演と称したヘイトスピーチを行ったことに対して危機感を持った市民たちによって結成されました。
田中さんは今年の地方統一選挙に日本第一党から3人の立候補者が出ていることに言及しながら、▼かれらを当選させないこと、▼相模原でも差別禁止条例を制定すること、そして津久井やまゆり園での障害者虐殺事件について触れ、それを活動の根底に置き、▼すべての差別を許さないこと―、この3つの方向で運動を進めていくと話しました。
最後に、「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」事務局の山田貴夫さんが行動提起をしました。山田さんは今回の条例の骨子案にはネット上でのヘイトスピーチの対策については盛り込まれていないため、それも課題として挙げていかなければならないと提起。また、被害者の救済システムをつくること、条例制定後もきちんと機能しているかチェックする場を持つこと、その場に市民が参加すること、などの項目も重要だと話しました。
さて、上にも書きましたが、本日10時から川崎市議会文教委員会が開かれます。「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例(仮称)」の骨子案についての審議が開始するのは11時~11時半頃とのこと。インターネット中継もあるそうなので、気になる方はこちら(http://www.kensakusystem.jp/kawasaki-vod/)からチェックしてみて下さい。(理)