愛知無償化裁判控訴審が結審、法廷で怒りの声飛び交う
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高校無償化制度から不当に排除されたことにより、生徒たちの学習権、平等権、人格権が侵害されたとして、愛知朝鮮中高級学校の高級部生徒・卒業生らが2013年1月24日に起こした国家賠償請求裁判(愛知無償化裁判)。2018年4月27日に名古屋地方裁判所で原告全面敗訴の判決が下された同裁判の控訴審第3回口頭弁論が4月26日、名古屋高等裁判所1号法廷で行われた。
裁判所には愛知朝鮮中高級学校の高級部生徒、同胞、支援者ら225人が89の傍聴席を求めて列をなした。
この日、法廷では控訴人(朝鮮高校卒業生)側が提出した第6、7準備書面(4月5日提出)の要旨陳述を、控訴人側代理人である裵明玉弁護士、中谷雄二弁護士が行った。
第6準備書面の要旨陳述を行った裵明玉弁護士は、国側が朝鮮高級学校の指定の審査においてその教育内容を審査の基準とできると主張していることについて、「規定ハの学校(朝鮮学校)の教育内容が審査の基準となるかについては、検討会議、審査会とも明確に否定している」と指摘した。
第7準備書面の要旨陳述を行った中谷雄二弁護士は、「朝鮮高校を規程13条に適合しないとして就学支援金の支給対象から排除した判断は、政府の介入が許される範囲を超えた教育内容の審査そのものであり、憲法違反である」「許されない基準に基づいて朝鮮高校を排除した本件不支給決定は教育基本法16条1項の『不当な支配』条項を濫用した政府の教育内容への介入であって、それ自体が『不当な支配』に該当する」などとのべた。
控訴人側は、控訴審において前川喜平氏(元文部科学事務次官)、成嶋隆氏(憲法・教育法研究者)、原告の愛知朝高卒業生をはじめとする5人の証人尋問の申請を行っていたが、要旨陳述後、裁判官は「裁判所として申請を検討した結果、いずれも必要性なしと判断した。立証については、すでに意見書、陳述書が証拠として採用されているので取調べの必要性が認められない」とし、弁論終結を宣言、判決期日を取り決めようとした。これに対して弁護団から異議が唱えられ、法廷内には「ふざけるな」「恥ずかしくないのか」といった怒りの声が飛び交った。
以下に弁護団の異議の一部を紹介する。
中谷雄二弁護士:提出した陳述書の書面だけでは分からない部分がある。裁判官には、実際に証人を調べて本人の気持ちを聞き、朝鮮学校がどういうものであるのかわかってもらいたい。これで審議が尽くされたのか言えるのか、裁判官の態度に憤りを感じる。
吉田悟弁護士:日本各地5ヵ所の地裁で朝鮮学校の教育内容が無償化適用の判断要素となるとしたのは愛知無償化裁判の原判決(名古屋地裁判決)だけだ。審査基準を含めて立法者である文科大臣が教育内容については審査に入らないと明確に発言しているにも関わらず、原判決は教育内容が無償化適用の判断要素になると判断した。前川喜平氏の証人尋問なくして、これについて判断することはできない。
裵明玉弁護士:本件不指定処分の決裁に前川氏は参加しており、本件不指定処分が政治外交上の理由でなされたのか、そうでないのかというのは、地裁段階からこの裁判の主要な論点の一つ。これについて前川氏は事実を知っている。
内河惠一弁護団長:裁判所はしっかりと事実を探求、確認すべきであり、公正な判断を下すにはもう少し慎重に審理すべきだ。証人尋問の申請をすべて却下し、このまま判決となるなら、まさに裁判所が予断と偏見を持って判断したと言わざるをえない。人権擁護の最後の砦として裁判所が位置づけられている以上、このような対応を遺憾に思う。
裁判官は、控訴人側弁護団が、本件規定改正(規定ハの削除)と本件不指定処分の成立の前後関係からすれば国側の主張する本件不指定処分の理由は本件不指定処分の理由となり得ないことを主張した準備書面8(4月25日提出)と本多滝夫教授(行政法学者)の行政処分に関する意見書(6月末提出予定)を見たうえで判決期日を決めるとして法廷を後にした。
閉廷後、アイリス愛知で報告集会が開かれた。
内河弁護団長は、「地裁では、前川喜平さんの反対尋問を経ていないので前川さんの陳述書は信用できないという結論が出された。だからこそ、控訴審で前川さんの証人尋問を行うべきだが、裁判官はこれを却下した。また裁判官には、地裁で十分に審議されているので控訴審は簡略化しようという考えがあった」とし、予断と偏見に基づいた裁判官の姿勢を批判した。
続いて中谷弁護士が、「国が教育内容の善し悪しを選別することは日本国憲法下の教育法で許されないとされているにも関わらず、これについてまったく考えていないのが原判決の問題点だ」としながら、「今日結審したということは、われわれの声に耳を貸すつもりはないということに等しい。裁判官のこんな態度を決して許すことはできず、憤りを感じる」とのべた。
裵弁護士も、「裁判所には、学者の意見を参考にしなければならない論点を十分に審議せず、また当然聞くべきと思われる最良の証人の尋問をあえてしないまま判決を下したいという姿勢が見受けられた。私たちは異議を申し立てたが、結審の判断は変わらなかった」と悔しさをあらわにした。弁護団としては弁論の再開を求めていく予定だという。
その後、愛知朝高高級部3年生による合唱が披露された。同校の女子生徒は、「私は今日の裁判を傍聴しながら、日本政府や裁判官が私たちの声に耳を傾けてくれず、私たちの声が届いていないという悔しさと憤りを感じた。しかし、私たちは必ずや無償化の権利を手に入れるべきであり、また手に入れることができると確信した。当事者である私たちが4・24教育闘争で果敢に戦った先代たちの精神を受け継いでいく。ここにいる全員が一つになり、民族教育とウリハッキョ、同胞社会を守っていくため最後までたたかっていこう」と呼びかけた。
今後、裁判でさらなる動きがあり次第、本ブログで逐一報告していく。(全)