市民の声を届けるために-国会で反人種差別政策について考える集会
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5月29日、東京・永田町の参議院議員会館で、院内集会「ヘイトスピーチ解消法施行から3年 改定入管法施行後の反人種差別政策に向けて」が行われ、関係者、国会議員、メディア、市民など約150人が参加した。
今年4月1日に改定入管法が施行され、外国人の「受け入れ」と人権にかかわる多くの問題がふたたび浮上するいま、まもなく施行3年目を迎えるヘイトスピーチ解消法をリンクさせ、新たな立法も射程に入れてさらに力を結集させていこうという趣旨だ。
はじめに、ジャーナリストの安田浩一さんが「外国人労働者とヘイトスピーチ」をテーマに発言。安田さんは冒頭で、「まずはどうしても許せないことがある」としながら、5月28日に起こった川崎・登戸の殺傷事件に言及。
「事件そのものはもちろん許しがたい。だが容疑者の身元が確認されるまでの間、ネットには『犯人は外国人に違いない』『川崎は在日コリアンが多いから犯人は在日だろう』というようなデマが流されたことに、ふざけるなという気持ちでいっぱい。著名人や影響のある人たちもデマに踊らされ、マイノリティが犠牲者になっている」と強く指摘した。
安田さんはまた、総聯中央本部に銃弾が撃ち込まれたヘイトクライムのほか、国際政治学者を名乗る人物が「大阪には北朝鮮のスリーパーセルがいる」とテレビで平然と言ってのけた出来事、また政治家によるヘイト発言などを挙げながら、「これらすべてが、ヘイトスピーチ解消法が施行された以降に起こったことだ」と、法の実効性について再考する必要性を指摘した。
弁護士の指宿昭一さんは、「改定入管法と外国人の人権」をテーマに発言。「日本には外国人人権基本法もなければ、多文化共生を推進する法律もない。入管法は外国人を管理するだけで、外国人の人権を守る法律ではない。それどころか外国人差別の温床になっているのではと思う」とさっそく問題提起をした。
指宿さんは今年4月1日に施行された改定入管法の問題点について解説。一つ目は、外国人労働者を日本へ送るブローカーの規制がきちんとなされなかったこと。これまで、技能実習生や留学生のケースでも渡航希望者から不当に高額な費用を取る事例が多発しており、中間搾取や人権侵害の温床になっていた。そのような課題が目に見えているにも関わらず、大きな改善には至らず、実行性に疑問があるとした。
もう一つは、労働者の使い捨ての問題だ。改定入管法では、新たに「相当程度の知識または経験を要する」、「特定技能1号」と「熟練した技能を要する」、「特定技能2号」という在留資格が設けられた。しかし、「1号」の労働者は通算5年以上の滞在が認められない使い捨ての状態で、家族帯同も認められていない。
「そして最大の欠陥、それは技能実習制度を残したこと。技能実習生の方が、より奴隷的だからです。技能実習制度は、国際協力のために技能・技術を開発途上国へ移転する—という名目を持たされているが、実際には労働者として扱われている。技能実習生には基本的には転職する自由がなく、これまでにたくさんの人権侵害が起こってきた。農家に送られ、強姦された中国人女性もいる」
指宿さんは、技能実習制度は必ず廃止されるべきだと主張し、また制度の改正を求めていかなければと話した。同時に法改正を待つだけでなく、市民社会のなかで外国人労働者を組織化し、団結・支援して権利を守っていく必要があるとした。
国士舘大学教授の鈴木絵理子さんは、「解消されない実質的差別と拡大する制度的差別」とのテーマで発言。先立つ発言にもあるように、制度的不平等の拡大は差別の拡大につながると話し、総合的な対応策として言葉、制度の壁を解決するための施策が設けられなくてはいけないと主張した。
最後に、弁護士の師岡康子さんが「切迫する人種差別禁止法の必要性」について発言。師岡さんははじめに、「今日の話でも怒りを禁じえない、外国人に対する人権侵害の話がたくさんあった。私たちはそれが新しい問題ではないということは確認しないといけない」と指摘。
「植民地時代には法的にもっと差別して、被植民地の人々を奴隷とし、簡単に命を奪ってきた。戦後はそれに対する反省から出発しないといけないのに、それをすることなく差別し続けて、在日朝鮮人をはじめとする多くの在日外国人を無権利状態に置いたまま今日に至っている。その結果としての現在のヘイトスピーチの蔓延だと思うし、移民の方々への差別だと思う」
師岡さんはまた、ヘイトスピーチ解消法が施行された以降の路上、警察、市民の動きなどの変化について解説。いまだ止まないヘイトスピーチ、それどころか法の隙間をぬって巧妙に広がり続けるようすを指しながら、ヘイトスピーチ解消法の矛盾と限界が露わになったと話した。その上で、より実効性のある法律、人種差別撤廃基本法の必要性を訴えた。
集会の最後にアピール文が採択された。
「ヘイトスピーチ解消法と改定入管法。これらは国会では別々の問題として議論されてきましたが、当事者から見れば、技能実習生として職場で不当な扱いを受けることも、家族の帯同を認められずに働かなければいけないことも、外国人として入居や入店、就職を拒否されることも、入管で暴力的な扱いを受けることも、路上のデモ隊から悪質なヘイトスピーチを浴びせかけられることも、すべて差別という点で同じです」―。
主催側は、参加者一同の名前で▼政府は、外国人の人権擁護や異なる文化的背景の尊重などを含んだ内実ある移民政策を提示すること、▼政府は、何がヘイトスピーチかを判断するガイドラインを明示するとともに、ヘイトスピーチを含む人種差別全般を解消するための基本方針を策定すること、▼政府は、ヘイトスピーチ解消法をふまえてヘイトスピーチを解消するための教育活動を実質化すること-など5つの事項を求めた。
集会には8人の国会議員が参加。ある議員が「今回の集会を機に、またいろいろと教えて頂いて頑張っていきたい」と発言するのを聞いて、国に声を上げるために、このような市民たちの団結した集まりと発信がとても大事なのだと実感した。(理)