ヘイトスピーチ根絶のために、国会議員ができること
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国会議員による「ヘイトスピーチ解消法施行3年記者会見」が5月31日、永田町の参議院議員会館で開かれた。1週間ほど経ってしまったが、気づきや学びが多かったので内容を紹介したい。
会見では、解消法成立のため当時から関わっていた議員がこの間の取り組みを振り返り、それぞれに課題を語った。
自由民主党の西田昌司議員(国会対策委員長代行)は、「とにかくヘイトスピーチというのは恥ずべき行為であり、やめるべきなんだということを国会が認めたのは非常に大きな意味があった」とのべた。一方で、「残念なのが次は選挙を通じて、演説でなら自由だろうとわざわざ選挙に出てヘイトスピーチをする人が一部にいる。それを取り締まることはなかなかできない」とし、「そういう人たちは社会的に認められない。国民がそのことをしっかり認識しないといけない」と強調した。
「ヘイトスピーチは人々の心を不快にさせるし、言えば言うほど自分の心が乱れて負の感情が増長し、不幸な道に行ってしまう。ヘイトスピーチをやっている人々にはそれを理解してほしい」とも発言した。
公明党の矢倉克夫議員(政策審議会副会長)は、「5~6年前に川崎でヘイトスピーチの問題が上がり、法務委員会で視察に行ったときに、市役所の職員から『法律がないから私たちは何もできません』と言われたことが印象に残っていた。なんらかの形で必ず法律を作って行政を動かすことが必要だと学んだ」と当時の思いをのべた。また、「『助けて下さい!』という町に暮らす方の声が深く胸に刺さって、そういった一人の思いが広がって全会一致という形になったのかなと改めて感じている」と話した。
矢倉議員は他にも、「選挙運動の名を借りたヘイトスピーチの問題については、“公明党ヘイトスピーチ問題対策プロジェクトチーム”が3月26日に菅官房長官に提言をした。解消法の理念を活かしていくためには、許されないものは許されないと社会の人たちに伝えていく必要があるのではないか、という提言だ。その結果、28日には警察庁が都道府県に対して、選挙運動でも不当な差別的言動は許されないという趣旨の通知をした」と最近の働きかけについて報告した。
「解消法は一つの、スタートの宣言。長い闘いだということを理解したうえで、それでも諦めずにやるということを宣言した」という言葉から、ヘイトスピーチ根絶のために不断に行動していこうとの決意が伺えた。
日本共産党の仁比聡平議員は、「解消法の成立は大きな一歩ではあるが、終着点ではない。3年間を振り返って、差別や分断のない社会を実現していく上での国会の責任、政治家の責任というものを痛感している。ヘイトスピーチの根絶のため、6年前から有田さんとともに参議院法務委員会での質問を繰り返してきた。最初の時期の質問というのは法務省の啓発ポスターについて。外国人の人権を守りましょう、というようなほんわかした、テーマのはっきりしないポスターが全国で1000枚もないという条件下で、広がっているヘイトスピーチに焦点を当てた、「許さない」という啓発をしなければならないのではないか、と問うた。そういった中で、現在の『ヘイトスピーチ、許さない。』という黄色のポスターに実っていった」と積み重ねてきた取り組みを話した。
また、「私がとりわけ印象的だったのは、ヘイトスピーチを叫ぶ人たちが警察に守られながら向かって来た時のショック。そして被害者の『あの時、私の心は殺されたと同じです』という言葉。ヘイトスピーチが人間の尊厳をどのように踏みにじり、否定し、人格そのものを壊していくのか。その傷がどれほど重いのかということを私たちがちゃんと認識したことが、今の解消法成立に実っていったと思う」と、自身の気づきと行動の動機についてのべた。
その上で、「この3年間、積み重ねられてきたさまざまな行政の取り組み、地方自治体議会での条例制定の取り組み、また条例制定後の運用実績などをしっかり受け止めて、国会での議論を再び行う時期なのではないかと思っている」と主張した。
立憲民主党の有田芳生議員は、「昨日も新宿で凝りもせずにヘイトスピーチをする人物がマイクを握っていたが、それに反対する人たちが当然のように来ていた。6年前に新大久保でとんでもないデモが行われた時に比べると大きな変化だ。ヘイトスピーチのデモや集会に、こんな人たちが来てるのかというような新しい人たちが老いも若きもカウンターとして集まってきているというのが、解消法制定以降の現実的な大きな効果だろうと思う」と実感を話した。
有田議員は続けて、「市民一人ひとりの人間的な怒りが、ここにいらっしゃる国会議員の皆さんの怒りと結びついてできたのが解消法だと思う。先ほど桜本の話が出たが、法務委員会で視察に行ったときも法務省の人権擁護局長も参加しており、在日コリアンの方のお話を聞いて涙を流す場面があった。そういう悲しみと苦しみと怒りというものが法務省の中でも広がっていった。その当時の人権擁護局長は土日の休みにヘイトスピーチの現場に自ら行き、実感としてヘイトスピーチを許さないという思いに駆られたという。そういった思いが法務省をも動かし、選挙におけるヘイトスピーチに対する通達を出して下さるような、今につながっているんだろう。しかし、いまだ止まないネット上の人権侵害やヘイトスピーチに対し、いまの法律では限界がある。これはやはりこれからの課題として、超党派で新しい取り組み、法律化を進めていかなければいけない。皆さんのお力に支えられながら、現場を基本にして国会と結びつく動きというものをこれからも作っていきたい」とさらなる対応策の必要性に言及した。
続いて質疑応答があった。
Q:公人、国会議員、著名人によるヘイトスピーチが大変多くなっているが、そのことに対して一般の方々は「こういう人たちが言っているからいいではないか」というような事例が増えている。これをなくすために求められる議員の役割は?
-仁比聡平議員
公的存在によるヘイトスピーチの問題は実際に大きい。そんなことは許さないんだという大衆運動を、私たち政治家が先頭に立って大きく広げていかなければいけないし、そのことによって攻撃の対象となっている人たちの前に私たちが立ちはだかって守ることが大事だ。ところが現実には現職の国会議員だったり、その候補者だったりが、戦後の憲法のもとでの基本的人権の保障や平和と民主主義という大前提を根本から否定し、覆す言論を起こしている。この政治の責任ということを根本から打開しなければならない。先ほど言った地方自治体での条例の取り組み、運用と全部ひっくるめて、国会―例えば法務委員会の舞台で、関係の皆さんをお呼びして参考人質疑を行い、今の現状がどうなっているのかということをちゃんと認識・共有するということを次の国会からでも始めるべきだと思う。
-矢倉克夫議員
先ほど官房長官への提言について話したが、国会議員だからこそできることを当然やるべきだ。解消法ができたことで、ヘイトスピーチの存在とそれをなくすことを国の目標にした、という理解はされたと思う。次は他者への理解や寛容という想像力が大事で、それを育むために必要なのは教育だと思う。色んな部分に関わる根本の話なので、教育制度も含めて、どのように詰めていくかという議論を総合的に進めていかなければいけない。
-有田芳生議員
立憲民主党の参議院比例区の公認候補で、ネット上でヘイトスピーチを行ったとして公認を取り消された人がいた。与野党問わず、もっと国会議員―あるいは候補者が敏感にならなければいけない。私は立憲民主党の議員として、党内でヘイトスピーチについての講座をやるべきだという提案をしている。ここにいる我々はヘイトスピーチは許さないという考えがはっきりしていても、そうでない人たちがいる党もある。なのでそのような努力もしていきたい。
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記者会見に参加しながら、自分たちの生活に直結するものとして、初めて政治家の力の大きさを身に迫って実感した。上で話されたような公人のヘイトスピーチといったマイナスの部分にしても、市民の言葉を国レベルに押し上げ具現化してくれるプラスの部分にしても。本当に、「自分のできること」というのは階層によって様々なのだなと知った。
同時に、声を上げる一人がいるかどうかも大事だと思った。これは最初に声を上げたというだけに関わらず、その後に続いて立ち上がる人がいたかということだ。膨らんだ市民の声は小さくても国を動かす可能性を持つ。ただ、傷を受けた個人が声を上げるまでには想像もできない辛さがあるし、声が広がるまでは二次被害が最初の一人に集中する。だからこそ、上でも引用した「攻撃の対象となっている人たちの前に私たちが立ちはだかって守ることが大事だ」という言葉には心強さを感じた。
この日の会見に立った国会議員たちは目の前の個人の苦しみに触れて、自分がやるべきことを決意した。政治家と市民の生活をつなげるためには間に入る機関や制度がきちんと機能すべきだし、それを支える専門家など幅広い分野の連帯が必須だ。各々の「できること」を知り、その力を結集させなければいけないと感じた。(理)