「徴用工」問題、正しい解決をー日韓の弁護士らが声明
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韓国の大法院判決をめぐり日本と韓国間の対立が深刻だ。
大法院判決は、日本の植民地支配時に強制連行によって過酷な労働を強い、犠牲になった被害者たちへの賠償を日本製鉄、三菱重工、不二越などの企業に命じたもの(2018年の10、11月)だが、安倍政権は、大法院判決が出た後、同判決への批判を繰りかえし、経済報復といった筋違いの対応をしながら世論をミスリードしている。対立が深まるなか、8月11日、両国の関係を憂慮し、被害者の名誉回復を望む日韓の弁護士、支援者たちが都内で声明を発表した。
冒頭、川上詩朗弁護士は、「被害者の権利救済の問題だということを強調したいと思い声明を出した」としながら、次のように述べた。
「日韓の政治、外交的な対立が報じられているが、出発点は被害者。被害者たちは政治的な対立を望んでいない。大法院判決は、日本政府、日本企業、韓国政府からも救済もなされない被害者たちが自分たちの人権を回復したいと訴え、認められたものだ。
大法院判決について、私どもは司法の役割がしっかり果たされたと思っているが、そういう視点からの情報が国民に伝わっていない。被害者が被った被害をどう救済するかに立ち返って、今の日韓関係を改善するために何をしなければならないのか、日本の国民の方々、韓国の方たちにも考えていただきたい。
『韓国は約束を守らない』という主張が日本国内で浸透している。大法院判決は日韓請求権協定を否定したものではなく、被害者の権利救済の方向での解釈を展開している。約束を破った破らないのレベルではないと考えている」
川上弁護士の発言は、安倍首相の発言を念頭に置いたものだろう。安倍首相は、大法院判決について、「徴用工問題とは、歴史問題ではなくて、国際法上の国と国との約束を守るのか、ということであります」「相手の国が約束を守らないなかにおいては、今までの優遇措置はとれない」(7月3日、党首討論)などと否定してきたが、この国際法が何を指すのかについても説明していない。三権分立、司法の独立性を無視した発言だ。
太平洋戦争被害者補償推進協議会共同代表・李煕子さん(74)の訴えも切実だった。李さんは、1歳のときに軍人軍属として中国に連行された父を亡くし、さらに父親が靖国神社に合祀されたことを拒否するため、日本で裁判を起こした犠牲者の遺族だ。
李さんの発言を紹介する。
「この間、三菱、不二越、日本製鉄の被害者たちが、徴用され奪われた権利を求めて日本の法廷で切実に訴えてきた。しかし日本ですべて請求が棄却された悔しさから2000年代に入り韓国の法廷で訴訟を始めた。
2018年の大法院判決は、日本で訴訟を支援してくれた弁護士、支援団体、韓国の弁護士、支援団体が三位一体となって勝ち取ったものだ。
なぜ私は、皆さんがご存知のことを言うのか。大法院判決が出たとき、被害者たちは人権を回復し、企業から謝罪を受けられると思った。私たちは20年を越える間、企業を相手に訴えを起こしたが、安倍政権のやり方に怒りを禁じえない、未だに植民地であるのかと。
被害者たちは、死ぬ前に怨みを晴らそうと思ったのに、大法院判決によって、人権が回復するだろうと思っていたのに、このような状況になってしまった。私も遺族の一人として心を痛める被害者を見ながらあまりに心が重く苦しい。
韓国の被害者が訴訟で闘うというのは、お金欲しさでははない。生存権の闘いなのです。植民地時代に踏みにじられた本人の人権を取り戻すための歴史的な闘いだと強調したい」
世論をミスリードするマスコミに対しても、「正しく導いて」と訴えた。
「記者たちは日韓関係が最悪だと書いているがいるが、それは違うと思う。今までの誤った歴史について日本政府が反省し、企業が謝罪、解決することが必然的な過程だと思っている。両国の市民たちは、政治家たちに惑わされずに、知恵を絞って解決していくだろう。悪意に満ちた記事、マスコミが日韓関係を悪化させるのでこれをやめて欲しい。
どうすれば知恵をもって乗り越えていけるか。どういう風に賢明に乗り越えていくのか。マスコミの役割は大きい。」
記者会見は予定の1時間を超えて行われた。
弁護士や支援者たちが繰り返した、「日本政府、日本企業、韓国政府からも見捨てられた被害者たち」という言葉が頭から離れない。声明を発表した中には無償化裁判に関わる弁護士もいた。
司法は人権救済の最後の砦―。
被害者たちは高齢で、裁判を前後して亡くなった方もいる。日本企業は一日も早く大法院判決に従って被害者への救済に取り組むべきだ。以下は声明全文。(瑛)
●徴用工問題の解決を求める日韓弁護士や支援団体声明(全文)
8月11日、徴用工問題の解決を求める日韓弁護士グループや支援団体が発表した声明(全文)は次の通り。
日韓関係が悪化の一路をたどっている。
日本政府は、本年6月19日、韓国政府の提案した徴用工・勤労挺身(ていしん)隊問題の解決構想案について直ちに拒否の意思を明らかにしたことに続き、7月1日には、半導体核心素材など3品目の韓国への輸出手続きを強化することを公表し、さらに韓国を「ホワイト国」から除外する閣議決定を行った。
日本の外務省は、今回の輸出規制措置が徴用工・勤労挺身隊問題に関する韓国大法院判決問題とは無関係であると説明している。しかし、安倍首相自ら「1965年に請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守らない中では、今までの優遇措置はとれない」と語り(7月3日、日本記者クラブ党首討論)、日本のマスコミの多くも今回の措置が韓国大法院判決への対抗措置であると論じているように、輸出規制措置と徴用工・勤労挺身隊問題は関連性があるとの見方が有力である。
日本政府は、韓国大法院が徴用工・勤労挺身隊被害者の日本企業に対する慰謝料請求を認めたことを取り上げて、韓国は「約束を守らない」国であると繰り返し非難している。
しかし、韓国大法院は、日韓請求権協定を否定したわけではなく、日韓請求権協定が維持され守られていることを前提にその法解釈を行ったのであり、昨年11月14日、河野外務大臣も、衆議院外務委員会において、個人賠償請求権が消滅していないことを認めている。
そもそも、原告らは、意に反して日本に動員され、被告企業の工場等で賃金も支払われず過酷な労働を強いられた人権侵害の被害者である。この被害者に対し、日本企業も日韓両国政府もこれまで救済の手を差し伸べてこなかった。そこで、被害者自らが人権回復のための最後の手段として韓国国内での裁判を提起したのである。
法の支配と三権分立の国では、政治分野での救済が得られない少数者の個人の人権を守る役割を期待されているのが司法権の担い手である裁判所であり、最終的にはその司法判断が尊重されなければならないとされている。
徴用工・勤労挺身隊問題に関する韓国大法院判決は、まさに人権保障の最後の砦(とりで)としての役割を果たしたものといえるのであり、評価されこそすれ非難されるべきものではない。
それに加えて何よりも問題なのは、人権侵害を行った日本企業や、それに関与した日本政府が、自らの加害責任を棚に上げて韓国大法院判決を非難していることである。
被害者である原告は、日本で最初に裁判を始めてから20年以上を経て自らの権利主張が認められたのである。被害者の権利主張を認めた韓国大法院判決を非難するということは、被害者の法的救済を妨害し、さらに被害者に新たな苦しみを与えるものと言わざるを得ない。日本国憲法により普遍性を有する個人の人権を尊重しなければならないと命じられている日本政府の取るべき態度ではない。
私たちが望むものは、日韓両国政府の対決ではなく、対話を通じた問題解決である。被害者の被害実態に誠実に向き合うことなく、被害者を蚊帳の外に置いたまま、国家間の政治的対立に明け暮れる姿勢は、直ちに改めるべきである。
今の悪化した日韓関係を改善するためには、徴用工・勤労挺身隊問題の解決は避けて通ることのできない課題である。被害者と日本企業との間で徴用工・勤労挺身隊問題の解決のための協議の場が設けられ、日韓両国政府がそれを尊重する姿勢をとることこそ、日韓関係改善に向けた確実な第一歩になると確信している。
私たちは、改めて、訴訟の被告である日本企業に対して、徴用工・勤労挺身隊問題の解決について協議を開始することを求める。
また、日韓両国政府に対して、当事者間での自主的な協議を尊重し、当事者間の協議を経て具体化されるであろう徴用工・勤労挺身隊問題の解決構想の実現に協力するよう求める。
2019年8月11日
強制動員問題の正しい解決を望む韓日関係者一同
(韓国)
金世恩(弁護士、日本製鉄、三菱、不二越訴訟代理人)
林宰成(弁護士、日本製鉄、三菱、不二越訴訟代理人)
李尚甲(弁護士、三菱勤労挺身隊訴訟代理人)
金正熙(弁護士、三菱訴訟代理人)
李国彦(勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会常任代表)
李煕子(太平洋戦争被害者補償推進協議会共同代表)
金敏喆(太平洋戦争被害者補償推進協議会執行委員長)
金英丸(民族問題研究所対外協力室長)
(日本)
足立修一(弁護士)
岩月浩二(弁護士)
大森典子(弁護士)
川上詩朗(弁護士)
在間秀和(弁護士)
張界満(弁護士)
山本晴太(弁護士)
高橋信(名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会共同代表)
平野伸人(韓国の原爆被害者を救援する市民の会長崎支部長)
矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)
北村めぐみ(広島の強制連行を調査する会)