「子どもたちの未来のために」~第11回中央オモニ大会レポート(上)
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第11回中央オモニ大会が9月21日、東京朝鮮中高級学校で行われ、日本各地から約750人のオモニたちが集まった。オモニ大会は、乳幼児期、思春期、進路にいたるまで、わが子の「自立」に向けた、さまざまな悩みや葛藤を受け止める場になっている。
大会では、
子どもたちが生きていく「時代」や「社会」は、どうなっていくのか―
ウリハッキョ、民族教育の権利を守っていくためには―
日々、子どもの話にどのように耳を傾け、心をはぐくんでいくのか―
などをテーマに、午前に全大会、午後には5つの分科会が行われ、専門家を交えながら、子どもの育ちや保護者の役割を考えた。
実行委員は、関東地方の30、40代のメンバー。現実を直視しながらの企画には、笑いあり、涙あり、怒りあり…。各地の奮闘が伝わってきた。2回にわけて紹介したい。
1部全大会では、李柄輝・朝鮮大学校文学歴史学部准教授が、「愛する子どもたちの明るい未来のために」と題して提言を行った。
李柄輝准教授は、「同胞社会の現状は、植民地宗主国での差別、長引く祖国分断により縮小を余儀なくされており、民族教育の場でも生徒数や学校数の減少が深刻だ」としつつ、「問題解決のためには、巨視的な構造を見て原因を探ることが大切だ」と指摘した。
李准教授は、子どもの未来を展望していくためには、在日朝鮮人の生をがんじがらめにしてきた歴史的条件―
①植民地主義、
②東アジア冷戦、
③朝鮮半島危機―を克服していくことが重要だと指摘。
日本政府は、1952年のサンフランシスコ講和条約以降、植民地時代と同様に在日朝鮮人への差別を続け、様々な権利保障の対象からはずし、冷戦のもと治安対象として監視もしてきたとし、韓国国籍取得者にのみ永住権を付与するなど、同化圧力、韓国国民化圧力のなかで、「人間としてのあたり前の権利」を剥奪してきたと解説した。
さらに現在、1、2世が闘いによって獲得してきた諸権利も、日本政府の対朝鮮制裁によって次々と剥奪されているものの、「朝鮮半島で平和統一に向けた約束がなされ、植民地主義の清算を求める機運が高まっている」と時代の変化をのべ、「同胞たちが力をひとつに集め、歴史を転換させる主人公として立ち向かっていくことが大切だ」と主張した。
●第1分科・「探そう、子育て仲間」
続く二部では、5つの分科会が行われた。3つの分科のリポートを2回に分けて紹介したい。
1分科のテーマは「《어머니는 인생의 첫 스승》 ~찾아내자! 아이키우기의 길잡이, 길동무~」。子育ての仲間を見つけ、子どもを育てるにあたっての道しるべを共に探ろうといった内容だ。
はじめに、総聯中央教育局の洪瑛喆副局長が「同胞社会で子を育てる重要性―非認知能力育成のためにオンマ(アッパ)ネットワークが果たす役割」について講演を行った。
洪副局長はまず、認知能力と非認知能力について説明。認知能力はIQとも呼ばれるもので、一般的に知的能力のことを指す。一方、非認知能力はIQなどで測ることのできない内面の力のこと。近年、こちらが注目されているとしながら、非認知能力に分類される性質を5つ挙げた。
(1)新しい体験への期待感、(2)勤勉性、(3)外向性、(4)協調性、(5)大らかさ
その上で、「総合すると、その人を信頼できるかどうかに値するものとも言えるだろう」とのべた。
さらに、非認知能力のベースになるものの一つにアイデンティティがあると発言。人は目的があることで成長できるというような話も導入しながら、自分が何者か分かれば分かるほど目的が明確になり、ものごとに没頭したり力を得やすいと話した。
続いて幼少期(0~5歳)期の重要性についても言及。
▼個人差が大きく開く前であること、▼大人の介入が大きく影響する時期であること、▼能力の土台を作ることができる時期であること―から、この時期に非認知能力を育てやすい環境を意識的に作ってあげることが大事だとした。
では、同胞社会はその部分でどのような役割を果たせるのか。洪副局長は、
1)保護者同士、子育ての悩みを緩和できる
2)子どもたちの自己肯定感の基礎を育成することができる
3)具体的モデル(個人的、社会的)の育成につながる
の3点を挙げた。
説明の途中で洪副局長がのべた「日本人に私の娘の未来像が見えるはずがない。娘の未来像は同胞社会にある」という言葉は、この3つを包括的に説明していると感じた。幼児の子育てには「家庭」「社会」「就学前教育」が関わってくるが、同胞社会は、「家庭」でもあり「社会」でもあり「就学前教育」を施す場でもあり、3者が重なるものであるとして、同胞による子育てネットワークの意義・必要性を伝えた。
埼玉県在住の金英玉さん(33)は、「『こういった話が聞きたい』と思っていたことをピンポイントで聞けて良かった」と、自身が得た安心感について語っていた。
講演が終わると、日本各地にある同胞子育てサークルの経験交流会が行われた。まず東京・城南支部の「チャララ」運営に携わる洪愛舜さんが発表。
洪さんは、子育て中の母親の71%が「0歳児の子育て」期間が一番しんどいと回答したアンケート結果を参照しながら、子育ての一番しんどい時期に語り合える仲間の存在が大事だと発言。
▼気をつかわない、▼近い年齢で同じ悩みを共有できる、▼ご近所にある―という点で、日本の自治体が市区町レベルで開いている子育てサークルを自身も活用していることをのべ、しかし「どうしても埋められないことがある」と話した。
例えば、親戚関係の悩みや疑問、そのほか、トルチャンチ(1歳のお祝い)の仕方、食事といった同胞独特の文化に関する話題を共有できるのは、やはり同胞コミュニティ。いま、日本各地には96の同胞子育てサークルがあること、参加しているオモニの数は2652人にも上ることに言及しながら、「日本全国でこんなにたくさんのオモニたちが一緒に子育てしていることに勇気をもらえませんか? いつもこのことを思いながら子育てしてほしい」と明るく呼びかけた。
他にも奈良県のサークル「コグマ会」、宮城の児童教室「コメンイ」、西東京の子育て広場「トルガポ」の経験が共有され、各地の実情に沿ったこれまでの歩みと活動に込められた思いが話された。兵庫県からは、県下の同胞子育てサークルをまとめたスライドショーが送られた。
●第3分科「ウリハッキョを考える」
第3分科「ウリハッキョを考える―子どもたちのためのオモニの選択、そして責任」は、埼玉のオモニたちのプレゼンツ。今年7月、朝鮮学校保護者から集めたアンケートをもとに、「ウリハッキョとはどんな学校なのか」「オモニたちはどのような役割を果たしていくべきなのか」を考えた。
アンケートには1023人が回答。
質問は、
なぜ朝鮮学校に通わせたのか/
朝鮮学校に通わせて良かったことは/
他の学校に通わせる考えはあるのか/
子どもを朝鮮人として育てるために意識的に取り組んでいること/
子どもの将来に求めるもの/
…などだ。
司会の梁仙麗さんがアンケート結果を発表した後、康明逸・朝鮮大学校経営学部准教授の講演が行われた。
康准教授は、朝鮮学校の教育に求められるものは、①人格の尊重、②民族性、③生きる糧・能力の獲得-だとしつつ、朝鮮学校に子どもを通わせる保護者の葛藤について、次のように問題提起した。
「保護者たちは、ウリハッキョで、日本や国際社会で生き抜く力と、民族的なアイデンティティを育てたいと考えているが、この二つの力を育てることが可能なのか、と悩み葛藤している。しかし、どちらか一つを選ばなくてはならない構造に落としこんでいるのが日本社会。果たして、どちらかを選ばなくてはならないのでしょうか」
康准教授は、1990年代以降の日本社会の変化として、二流経済国化、新自由主義化、保守右傾化が顕著だとし、いずれ、アメリカのような経済的徴兵制の時代も訪れるだろうと指摘。同胞の失業率や自営業者数をもとに、「自営の次の段階を考えていくべきだ」と提案した。
次に、21世紀に求められる能力として世界的に注目されているのが、コンピテンシー、非認知能力だと強調。
教育を通じて「変革に対応する力」を獲得することが必要で、この力は、人から信頼される人間性の土台を築き、自ら学ぼうとする意欲・能力を育てていくことで身につくものだと指摘。さらに、「育った文化や生活習慣で学習資本の大きさが異なってくる」とし、理想の教育の場とは、学校、家庭、地域社会の三つが子どもたちの教育に関与しながら成長していく形(共育)だとのべた。
最後に、朝鮮学校が70年以上の間、培ってきたシステムで「理想の教育」を追求していけるとのべ、冒頭の問題提起について、「何かを捨てる必要はない。朝鮮学校でも、2つの可能性を実現することができる」と主張した。朝鮮学校卒業生の進路実績や言葉もふんだんに紹介した。
他にも、3分科では朝鮮大学校を卒業し、現在は日本の大学院に通う梁昌樹さん、東京朝鮮中高級学校初代オモニ会会長の朴史鈴さん、長野や埼玉でオモニ会会長を務めた金京愛さんらが発言し、自分にとっての朝鮮学校がどんな存在だったのか、オモニ会活動を通して見えてきたことを伝えた。
朴さんは、「今、私たちには、わが子をチョソンサラム(朝鮮人)として育てあげる、という強い覚悟が必要だと感じている。子どもが学校を卒業してオモニ会活動が終わっても、地域社会でも役割を担い、子どもたちを見守っていく」と力強い決意を表明した。(続く)