神奈川新聞・石橋学記者の思いーレイシストの提訴を受け
広告
川崎市を中心に差別発言を繰り返してきた佐久間吾一氏が、神奈川新聞の石橋学記者に「名誉を毀損された」として、同記者を被告として150万円の支払いを求めた裁判の第一回期日が9月24日、横浜地方裁判所川崎支部で行われた。
佐久間氏が問題としているのは、神奈川新聞19年2月15日付け神奈川新聞の記事。
記事で石橋記者は、佐久間氏が2月11日、市内の公的施設で講演会を開き、「いわゆるコリア系の方が日本鋼管の土地を占領している」「共産革命の拠点が築かれ、いまも闘いが続いている」などと発言したことを、「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」と断じている。
石橋記者の弁護団は、これまでの川崎におけるヘイトスピーチ被害の実態や、佐久間氏が瀬戸弘幸日本第一党最高顧問の支援を受けて立候補した事実などを踏まえ、石橋記者がこれを「差別扇動」だと論評したのは、「当然だ」と主張している。この裁判で弁護団は、池上町の住民への誹謗中傷が「差別扇動」(=ヘイトスピーチ)であることを裁判所に認めさせることが重要だとしている。
※日本鋼管(現JFEスチール)は戦前に、現在の池上町一体を買収し、軍需工場の建設に着手。建設現場には朝鮮半島から渡った朝鮮人が働いていた。
「朝鮮人強制連行調査の記録 関東編1 神奈川・千葉・山梨」(朝鮮人強制連行真相調査団編著、2002年)によると、「日本鋼管の横浜工場や川崎工場には、42年3月29日から10月12日までに5回にわたって主として京畿道から朝鮮人青少年が999人連行されてきた」という。
裁判には、約50席の傍聴席を求めて多くの市民が詰めかけ、報告集会にも多くの市民たちが集まった。沖縄タイムス、琉球新報、福岡のRKB毎日放送など地方からも記者が取材にかけつけた。
報告集会で発言した石橋記者は、「法廷に入りきれないほど集まってくれ、心強かった。この裁判は、負けるわけにはいかない。かれらは川崎を拠点に、ヘイト活動を執拗に繰り返してきた。8月14日の川崎駅前での街宣でも、『在日をこの街から一掃しなければならない』と、明らかなヘイトスピーチを行っている。とくに醜悪な部分は、『自分たちはヘイトスピーチをしたことがない、するつもりもない』と必ず言うことだ。人権を踏みにじながら、被害をなかったものにしている。かれらの言動が差別であり、人権侵害であるということをきちんと判決に残したい」と語った。
ヘイトスピーチを批判する記者に対して名誉毀損裁判が起こされること自体、報道全体への萎縮効果をもたらすものだ。
だからこそ、石橋記者が他のメディアに対しても、「差別をなくすための記事を先頭で書いてほしい。(私たちメディアが)書いてこなかったからこそ、このような状況を招いてしまった」と訴えた言葉は重い。
ヘイトスピーチを放置してきた、国や行政の責任はさらに重い。
「ヘイトをなくすための取り組みは、本来、行政が施策として行うべきだが、カウンターや地域住民の皆さんが矢面に立たざるをえなかった。『法律がない』など、行政のことなかれ主義のなかで、当事者が訴え、一つずつ判例を勝ち取ってきた。
そして法律ができ、川崎ではヘイトスピーチを犯罪として処罰するための条例ができようとしている。この先、長い戦いになると思うが、皆さんの思いとともに差別をなくす判決を勝ち取っていきたい」(石橋記者)
レイシストとの裁判闘争を闘ってきた有田芳生・参議院議員は、
「2013年から各地に広がっていったヘイトスピーチは今、川崎に狙いが定められた。川崎が主戦場だ。第二次安倍政権が発足した後、レイシストたちが大手をふり、歴史の主流になってしまった。一刻も早く克服しなければならない」と勝訴を勝ちとろうと訴えた。
日本のメディアが右傾化して久しいが、会場では、「企業ジャーナリズムが問われる」との発言があった。企業が差別根絶の立場に立てるのかが、試される裁判でもある。
次回法廷は12月10日、11時から。
石橋記者は地方紙の記者。
いち記者のがんばりにとどまらせてはいけない、と強く思った。
石橋記者のヘイトスピーチ根絶への思いは、本誌のHP「ジャーナリストの目」に掲載されているので、ぜひ読んでいただきたい。(瑛)
「ヘイトスピーチがゼロになる日まで」
https://www.io-web.net/2019/02/journalist_ishibashi/