たたかいは合流地点へ―愛知無償化裁判控訴審判決・報告集会
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※判決言い渡し後のようすは前回のブログにて
報告集会の会場では、「幼保無償化」適用を求める集会が先立って行われ、県下の朝鮮幼稚班に子どもを送るオモニたちが発言した。
「私は、重く悲しい負の連鎖を次のオモニや子どもたちにバトンタッチしたくありません」-。東春朝鮮幼稚班の保護者は、幼い子どもにも向けられた差別に対し、引き続き声をあげていく旨をのべた。
涙で何度も声を詰まらせながら発言したのは、今年4月から東春幼稚班の教員を務める尹沙紀さん。「日本の幼稚園でなくウリ幼稚園で働きたかったのは、自分を民族教育の中で育ててくれたウリハッキョへの恩返しの気持ちからです」。
尹さんは朝鮮大学校在学中に保育士免許を取得し、志を持って現場で働いていた前に差別の壁が立ちはだかったことに対し、「私だけでなく、私を育ててくれたウリハッキョ、ウリ幼稚園を全否定された気がして腹立たしく、許せない。朝鮮大学校で学ぶ後輩たちのウリ幼稚園の先生になるという夢と希望を奪わないで下さい。幼児教育の権利と自由を奪わないで下さい」と切実に訴えた。
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報告集会では、愛知無償化弁護団の内河惠一弁護団長が、傍聴や記者会見に参加できなかった人たちのために再び発言。
「控訴審も残念ながら、一審以上に冷たい対応をしてきた。朝鮮高校の生徒たちの思いを裁判所が受け止めることができなかった、むしろ最初からそれを受け入れようと思わなかった、そういう判決になってしまった。『司法がだめならどうしたらいいのか』、これがいま私たちに突きつけられた大変深刻な課題だ」と問題提起した。
裵明玉事務局長も、改めて判決内容の問題点についてやさしく解説。
「名古屋高裁は、不指定処分当時に愛知朝鮮高校は対象校の指定を受けていなかったのだから、というような理屈で省令ハ削除の違法性を問うことから逃げた。そもそも省令ハが削除されていなければ、基準に沿って必要な改善をし、『疑惑』を晴らすことだっていくらでもできたはず。審査会では朝鮮学校の指定を前提に会議が進んでいたという話も聞いた。指定の可能性が高いのに、省令ハが政治外交的な理由で削除されたことによって審査会が打ち切られ、『指定されなかった』事実だけが残った。それだけを取り上げ、朝鮮学校を未来永劫、無償化制度から締め出した国の行為は不問にする。裁判所としての責務を放棄するような内容であったとしか言いようがない」
解説のあと、裵事務局長は幼保無償化からの除外に対する悔しさも口にしながら、個人的な思いを吐露した。
「在日朝鮮人に対する一番最初の大きな弾圧は、在日本朝鮮人連盟の強制解散であり、財産の没収、それに引き続く朝鮮学校閉鎖令です。このとき一世は、これは違法だと裁判闘争に踏み切っています。今でも歴史に残るそうそうたる弁護士たちが名を連ねましたが、強制解散を覆すことはできず、財産も没収され、朝鮮学校は閉鎖されました。裁判は負けという結末です。
しかし、じゃあ私たち一世、二世の先輩たちは負けたのかと言ったら、それは違う。今ここにいる素晴らしい学生たちの姿が、先ほどの先生やオモニたちの訴えが、『私たちは負けなかった』ということを証明しています。地裁判決の時に、静岡の友の会の方が言いました。『勝つまでは負ける』と。この負けに決して屈することなく、通過点にしていくような、そのようなたたかいをしていかなくてはならない」
昨年の決意を再び思い起こし、発言を終えた。
引き続きたくさんの連帯メッセージが。朝鮮民主主義人民共和国からも文書が寄せられ、代読された。また、東京、大阪、広島、九州と、無償化裁判を行ってきた各地からも発言があった。
朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会の事務局を務める瑞木実さんは、「判決を聞いていて、本当に冷たいなと感じました。裁判官が『総聯による不当な支配…』と言った時には、なに言ってんだとカッと悔しくなった。九州では昨日、控訴審が始まりました。私が報告集会で確認したのは、この裁判はお金が目的じゃないんだということ。朝鮮学校で学んでいいんだよ、民族教育を受けていいんだよ、それがあなたたちの権利だから、そんなことを伝えました。そういう社会を作るために、一緒に頑張っていきましょう」と笑顔を見せた。
愛知県からは、愛知中高オモニ会と朝高生の代表らが発言した。
朝高生2人は、差別の的になっている悲しさ、それが克服されない悔しさを話しながら、いずれも「当事者である自分たちがもっとなにかできたんじゃないか」と発言。これからも闘っていくと前を向いた。その言葉に、多くの大人たちが複雑な心情をにじませていた。
判決言い渡しには、韓国の同胞たちも駆けつけた。映画「ウリハッキョ」の監督で、韓国の市民支援団体「モンダンヨンピル」事務総長を務める金明俊さんは、「私たちが勝利を勝ち取るまで、まだあまりにも多くの時間と手段があります。幼稚園まで排除したのは日本政府が窮地に追い込まれている証拠だ。歴史的正当性が誰にあるのかは言うまでもない」と参加者たちを励ました。
「これまでは後ろで支援してきたが、主体のように立たなければならないと思った。これからは横に並んで一緒に歩もう。さあ、もうみんな泣かずに!」。
モンダンヨンピルからは、裁判の支援にと無償化ネット愛知へ50万円が手渡された。また、11月15日には愛知でモンダンヨンピルによるコンサートが開催される。
岐阜、静岡、三重の各地からも温かいメッセージがあった。
岐阜朝鮮初中級学校の子どもたちを支える「ポラムの会」・松井和子共同代表は、「裁判官には勇気を持ってもらいたい。良心はどこかにあるはずです。でも勇気がないんです。裁判所だけでなく、教育現場でも役所でもそうです」と、日本社会の良心に呼びかけた。
続いて各声明文の朗読があり、名古屋高裁の不当な判決に断固抗議・上告の意志を確認した。
最後に、弁護団の中谷雄二弁護士が発言した。
「判決を聞きながら、非常に論理的矛盾をしている判決だと思った。不支給通知の効力について、違法・無効であっても国家賠償請求は認められない、というようなことを書いている。違法・無効であるのなら不支給の処分は認められないことになるはずなのだが…。散々みなさんも言われたが、結局この判決は政治判決です。政権に忖度し、政治家に扇動された判決でしかない」
この不当な判決を許さず、引き続き真実を追及していく意思を固く伝えた。
報告集会のあとに持たれた懇親会では先ほどよりもさらに熱く、継続して闘っていこうとの思いが共有された。各地のオモニたちが発言するなか、大阪朝鮮高級学校オモニ会の高己蓮会長も立ち上がって話し始めた。
「大阪の地裁判決のとき、あの叫び、涙、法廷の中でみんなが立ち上がって、おこがましいかもしれないけど1945年8月15日の祖国解放のときの同胞たちってこんなんやったんかなって思いました。でも今日、不当判決が出て、怒り、悲しみ、苦しみ、そういった思いをまた共有した。戦後、先代は奪われた国と、名前と、民族を取り戻しました。このたたかいを私たちの代で幕を引けるかは分からないけど、私たちの姿は子どもたちに伝播すると思います。国の差別を乗り越えるための土台になっている。私たちはふみ台になっていると思う。まだまだ頑張りましょう。泣いてたらダメ、底抜けに明るく行きましょう!!」
大声で裏返った締めの言葉を聞いて、場は笑いに溢れた。
最後に愛知中高の趙京煥校長が言った「これから、各地が合流するつもりでさらに進んでいきましょう」という言葉が、今後の方向性を示しているようだった。(理)