シンポジウム「教育の脱植民地化とマイノリティ」
広告
白金祭・PRIME共催シンポジウム「教育の脱植民地化とマイノリティ」が11月2日、明治学院大学白金キャンパスで開かれた。
本シンポは明治学院大学国際平和研究所(PRIME)、ミレ教育財団、マイノリティ教育実践・研究センターが共催したもの。「日本の教育や知の生産を植民地主義の文脈で問い直し、植民地主義を乗り越えるために必要な経験や知識を、マイノリティの教育をヒントに教育学、法学、歴史学、社会学などの分野から考える」「植民地主義がどのように社会に浸透し、境界をつくり、人びとや価値観を序列化してきたか、平和と平等、公正に基づいた教育はいかにありうるかを考えるきっかけになれば」(いずれもシンポのパンフレットより引用)という趣旨で企画された。
明治学院大学教養教育センター教員の鄭栄桓さんがコーディネーターを務めた本シンポでは、同志社大学社会学部教員の板垣竜太さんが「批判的コリア研究のために―植民地主義と冷戦の思考に抗して」、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員の元百合子さんが「国際人権保障制度におけるマイノリティの教育権・学習権の位置づけ」というタイトルでそれぞれ発表を行った。
板垣さんは、自身が取り組んでいる朝鮮民主主義人民共和国に関連した研究(朝鮮の言語学者・金壽卿の評伝的な研究、「朝鮮学校と銀閣寺」と題した研究)を紹介しながら、自身が考える「批判的コリア研究」とその視座に基づいた歴史研究の方向性について考察。2000年代に入って東アジアで大きな社会状況の変化が起こったにもかかわらず日本では朝鮮に対する憎悪に満ちた言論が展開されていた、日本における朝鮮研究の層の薄さや植民地主義を克服できていないことからくる体制順応性を反映した評論的な「北朝鮮」論にいらだつとともに、憎悪の矛先が在日朝鮮人に向けられていることに怒りを覚えた、そこで自分なりの観点から研究を構築したいと考えるようになったとのべた。そして、自身が目指すものとして、「地域研究を含む今日の学問分野を産み出した植民地主義と冷戦という力に対して批判的な地域研究としての『批判的コリア研究』」を挙げた。板垣さんは、京都朝鮮中高級学校と地域社会とのかかわりについて研究する「朝鮮学校と銀閣寺」は、京都中高を地域や観光客に向けて開いていこうという「坂道ぷろじぇくと」という学校振興事業と連動して実施してきたものであり、その背景には日本社会・日本政府の朝鮮学校に対する無理解と攻撃があること、この研究は「北朝鮮」を悪魔化し、そこに朝鮮学校を連ねるような言説に対して地域のリアリティに即した記述を対置するようなオルタナティブな語りを追求している、などと指摘した。
元さんは、子どもたちが教育を受ける権利とマイノリティが教育内容を決定する権利は、国際法上認められているというのが国際社会の認識であること、その一方で日本のマイノリティ教育に対する不寛容さについても報告した。
この二つの発表に対して、弁護士の裵明玉さん(名古屋北法律事務所、朝鮮高校生就学支援金不支給違憲国賠訴訟弁護団)、明治学院大学国際学部教員の野口久美子さん(アメリカ地域研究、アメリカ先住民史専攻)、朝鮮学校の教育史を研究する呉永鎬さん(世界人権問題研究センター専任研究員)がそれぞれの研究や実践を踏まえてコメントした。その後、聴衆からの質問にも答えながら、発表者とコメンテーターによる討論が行われた。
登壇者からは、
在日朝鮮人による朝鮮学校設立の営みは、植民地支配によって生じた人間形成上のさまざまな問題を学校教育という人間形成そのものを目的とする方法によって改善、解決、解消しようとする被支配者自らの営みであり、被支配者たちの植民地主義の克服、脱植民地化のための営みである、マイノリティ教育がしっかり位置づけられていない日本の教育法体系の見直しが必要なのではないか、といった声も上がった。
このシンポジウムが開催されていた同時刻、幼保無償化からの朝鮮幼稚園除外に反対する集会とパレードが都内の別の場所で行われていた。意欲的で挑戦的なテーマを掲げた本シンポは、朝鮮学校を取り巻くさまざまな問題について考えるうえでも大変示唆に富む内容だったように思う。
本シンポについてのもう少し詳細な記事は11月中旬発行予定のイオ12月号で。(相)