あさりの怖さ
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先日、あさりの味噌汁が飲みたくてスーパーで購入、パックに貼られた「砂抜きしてください」という表示に、そういえばそんなことが必要だったよなと思い、帰りがてらスマホで方法を検索した。
「あさりの頭が少し出るくらいの水をバットに入れ、そこに濃度約3%になるよう塩を混ぜる。あさりが互いに重ならないよう浸したら、涼しく暗い場所に1~3時間置く」…。
そんなに時間かかるんだ…と後悔しながらも、帰ってすぐに浸けたらいいか、とひとまず続きを読み進める。すると、「あさりが水管から吐き出した水が~」というようなことが書かれていた。
(吐き出す? なに? あさりって生きてるの…? え、そういうこと?)不安になり、「あさり スーパー 生きてる」で再検索。私が見た砂抜きの方法紹介ページでは、「この時点でもあさりは生きているので、…」とまでは記述がなかった。きっと当たり前すぎることだったのだろう。そして結果は、やはり生きている。
途端にビニール袋の中のあさりが気になって仕方なくなる。いまも呼吸しているあさり。これまで生きたものを調理したことがなく怖じ気づいたが、買ってしまったのだから、やらないわけにはいかない。帰宅後とりあえずパックからラップを剥がし、あさりを取り出すことに。
普段、肉や魚はすでに切り分けられているものを購入するのでなにも考えず調理できる。それはすでに「素材」だ。しかし、あさりは生まれて大きくなったそのままの姿でそこにある。固く閉じられた貝の中身は柔らかくうねっており…。
どんどんグロテスクな想像になりそうだったので、さっさと済ませようとまずはボウルに移す。手が直接あさりに触れ、「生き物」感を強く意識してしまい軽く鳥肌が立った。
そもそもスーパーに売られているあさりが生きているものだとは考えたこともなかった。そういう概念がなかった。熱湯に入れておけばパカンと口が開き、そのまま食べられるものだと思っていた。砂だって「水に浸ける⇨出てくる」と短絡的なイメージのみが漠然とあり、その仕組みにまで意識を回したことがなかった。
大げさではなく、自分は世間や常識を知らなさすぎる。もう少し細かく言うと、結果だけ知っていてその意味やプロセスをまったく知らないものごとが多すぎる。自分は何事においても提供されるものをただ受け取るだけで、それ以上は何も考えてこなかったのではないか。欠けている知識ばかりなのではないか。
30歳を目前にして、「自分がどれだけボーっと生きているか」をあさりに思い知らされることになるとは予想もしていなかった。恐るべし、あさり。
さて、肝心の砂抜きである。結論から言うと失敗した。
分量通りの塩水に浸し、薄手の布をかけてキッチンの隅で3時間以上放置しても貝はまったく開かず。怖いもの見たさの水管もいっさい顔を覗かせなかった。口は固く閉ざされたまま。まさに沈黙である。
念のため冷蔵庫で一晩寝かせたが翌朝も変わらず。さらに念押しで水だけ捨てて出社、帰宅してもういちど見てもやはり変化なしだった。もしや買った時すでに死んでいた?とも考えたが、でもそんなもの売るだろうか。確信には至らない。
ぴくりとも動かないあさりたちを見つめながら、だんだんとまた怖くなってきた。死なせてしまったかもという罪悪感からである。生きているのも怖かったし、もと生きていたものが自分の生活空間で死んでいったというのも怖い。
いっそのこと無理やり沸騰したお湯に入れて味噌汁にしてしまおうかとも思ったが、「死んでしまったあさりが腐ると、貝毒と呼ばれる毒を発する。貝毒はキツい」などの記述を読んでしまったためそれも怖い。
1日放置したことが裏目に出た。もう見るのも怖い。この沈黙が怖い—。
大変申し訳ないが、あさりはそのまま廃棄した。もったいないけれどやむを得ない。ちょっとしばらくはリベンジする気にもなれない。今後どこかであさりの味噌汁が出ても、下手したら今回のことを思い出して食べられなくなるかもしれない。
「あさりの味噌汁が飲みたい」となんとなしに思っただけなのに、まさかことになるとは。ついにはあさりを死なせたというだけのどうでもいい話をこんなにも長々と書いてしまった。本当に怖い。(理)
活きているから熱湯で殻が開くのです。
冷蔵庫で1、2日放置しても死にません。
殻を固く閉ざして活きながらえています。
せめて人様のお役に立てるようにと。(アサリちゃんから直接聞いたわけではありませんが)
砂抜きに失敗しても一か八か味噌汁にしたら大切な命を無駄にすることも無かったのに… 残念。
スーパーのアサリは生きたまま廃棄されるのか? を検索したらここにw
ちょっとわかる気がするなーと思いました。