保護者、同胞ら30余人が抗議へ/さいたま市によるマスク配布除外問題
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さいたま市による備蓄マスクの配布対象から埼玉朝鮮幼稚園が除外されたことを受けて、引き続き抗議が続いている。
問題が発覚したのは3月10日。さいたま市は9日から市内の幼稚園、保育園などの職員向けに市の備蓄マスクの配布を始めたが、その対象から埼玉朝鮮幼稚園は漏れていた。埼玉朝鮮幼稚園の朴洋子園長が子ども未来局の担当職員に問い合わせたところ、配布ミスではなく「朝鮮幼稚園がさいたま市の指導監督施設に該当しないため、マスクが不適切に使用された場合、指導できない」との回答だったため事態を差別問題と認識し、11日に緊急抗議行動が行われた。
※朝鮮新報参照、詳細はこちら
昨日12日には、埼玉朝鮮初中級学校、同幼稚園の保護者、関係者、地域同胞たち30余人がさいたま市役所を訪れ、清水勇人市長への要請文を伝達。また、当事者らが思いを伝えた。
同胞たちは昨日と同様、子どもみらい局・金子博志局長との面会を強く望んだが、「忙しく時間がとれない」との理由で部長ら2人が対応した。
はじめに、埼玉朝鮮幼稚園保護者連絡会の尹致力、金初美代表らが要請文を朗読。今回のさいたま市の施策は「特定の集団を排除する理不尽極まりない決定をしようとしたもの」で「今後、新型コロナウイルス感染者が爆発的に増加したとしても、さいたま市が講じる施策から、朝鮮学校・幼稚園は外されるのではないかと思うと不安でたまりません」と思いがのべられた。
その上で、▼新型コロナウイルス感染防止措置として教職員用マスクの配布対象に埼玉朝鮮幼稚園を含むこと、▼今後、さいたま市が子ども関連施設について新型コロナウイルス感染予防措置を講ずる場合は埼玉朝鮮幼稚園を対象に含むと同時に関連事項をすみやかに通知すること-を求めた。
続いて、次々と発言があった。
金初美さんは、「ここにきてまだ認可・認可外(指導監督施設に該当する/しない)の線引にこだわるんですか? 今朝も校門にマスク、ティッシュ、消毒液が置いてありました。温かい日本の方々からたくさん連絡も頂きました。私たちがその行動から元気をもらった以上に、あなた方はその温かい方々に助けられている、救われていることも認識すべき」と訴えた。
鄭勇銖校長は「設置認可に関しては県の管轄だと重々承知している。しかし昨年、さいたま市の子どもみらい局からは同校へ視察に来た。他の施設と何ら変わりない、癒されたとすら話していた。それでこの対応か」と憤りを見せた。
対応にあたった部長は、「今回の件は昨日の時点で市長、副市長にも現状報告はしている。対応に関しては検討しているという以上の話はできないが、そのまま何週間も先に送るような事態ではないということも分かっている」としながらも、「ただ…」と続け、「備蓄量を考慮し、現在ある量をどう配分するか考えた結果、そこに対象の施設というものを決めさせていただいたというのはあります」と再び回答が一回り。これには怒りを通り越して失笑の声も漏れた。
昨日の抗議には来られなかったという尹致力さんは、「この問題をSNSとかで見て、課長さんの顔がすぐ浮かんだんですよ」と担当者の顔を見据えた。
「幼保無償化の問題でも1時間くらいお話しして、私たちの気持ちも分かりますと言ってくれて。『そういえば朝鮮学校があったな』と、ちょっと忘れていたとしても『この子たちにも感染のリスクがある』と何で思わないのかなって。たかだかマスク1箱でも、やっぱりさいたま市は朝鮮学校のことを差別してるな、根底にはそれがあるんだなと思ったんですよ」と怒りを伝えた。
その後もらちのあかない回答の繰り返しに、「さっきから聞いてると渡さない理由をのべてるとしか思えん。あなた方の姿勢で、どうやったら配布できるかという言葉は一つも出てきていない! 速やかにどうやったら出るか結論出してくださいよ!」と激しい声も飛んだ。
また、対象から朝鮮学校が除外されている現状に対しどう思うか尋ねられ、「職員なので個人の見解はのべられない」とした部長に対し、同幼稚園に孫を通わせる朴日粉さんがすぐに反論。「地方公務員、国家公務員は日本国憲法を指針にするんじゃないんですか? 憲法は人間の平等、人権の尊重を大事にしている。これは公務員としての責務じゃないか? この対応は、無知とか偏見とかを増長する以外のなにものでもない」と一喝した。
埼玉初中アボジ会の初代会長を務めたこともある、同校保護者の李良成さんは「朝鮮学校はずっと差別的な処遇を受けてきたので正直、慣れっこになっている部分もある。しかし今回のことは、子どもじみた表現になるが『やばい』。今日明日にでも是正し、マスク配布に関しては同等に扱うと謝罪して次のコロナ対策にどんどん入るべき」と冷静にのべた。
埼玉朝鮮学園の李昌勇理事長は、2011年の東日本大震災、また去年の台風時にも同校へは何の連絡もなかったことを振り返り、「ここに学校があるのに、なぜさいたま市は朝鮮学校に関心をもってくれないんですか? 根本的に考えを変えなければいけないと思う」と念を押した。
切迫した心情をぶつけるように、さまざまな言葉が担当職員へ向けられる。埼玉初中保護者の梁仙麗さんは、「いつ連絡するか、日程も決められないんですか? 局長に連絡する時間を今日決めて学校に連絡する、くらいのことをいま言えないんですか?」ともどかしそうに話した。
在日本朝鮮人人権協会事務局の文時弘さんは、「さいたま市が2014年に発表した国際化推進基本計画に則って考えれば答えはすぐ出るはず。これでは自らの考え方を裏切っていると思う」と資料を参照した。
約1時間半に及ぶ要請の結果、部長が局長と協議して明日(13日)の午前中までに「局長が何日なら対応できるのか、いつ頃までに連絡する」という旨を学校側へ伝えるよう約束がされ、部長は「今日、話はします」と明言した。
金初美さんは、「『とんでもないことをしたんですよ』と、本当に局長が動くように伝えてくれないと次につながらないんですよ。人と人が話すというのはそういうことですよ」と念を押した。
朴日粉さんは「人も組織も間違えることがある。でも勇気と誠意を持って対応すればできることがある。人として勇気を持って対応して下さい」と励まし、同じく同幼稚園に孫を通わせる金正玉さんも「これはマスク云々の話ではなくて、役所が人の命の重さを秤にかけた重大な問題。皆さま方が局長の考えを変えて下さい」と声をかけた。
最後に、この問題が発覚した後に報道された多くの記事が資料として手渡された。本日15時からは、「誰もが共に生きる埼玉を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会」メンバーらが中心となって引き続き要請を行う予定だ。
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話し合いの場では、どんなに言葉を尽くされ切実に訴えられてもまったく同じ趣旨の回答しかしない職員に腹立たしさを覚えながらも、それしか応えることのできないもどかしさも垣間見られた。
とある同胞女性は要請の場が終わった後で部長に駆け寄り、「立場上、言えないこともあるんですよね。でもここを離れたら親として心が痛いんだと、そう信じています」と声をかけ、「決して『うん』とは頷かなかったけど、目に涙を溜めていた」と話していた。(理)