パンデミックに襲われた社会がどうなるのか―
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新型コロナウイルスによる感染症の拡大が日本を含め世界中で連日大きなニュースになっている。感染症の拡大に加えて、マスクをはじめとする衛生用品の買い占め、品薄なども社会問題となっている。
パンデミックを描いた映画は数多あるが、2011年に日本で公開された『コンテイジョン』(スティーブン・ソダーバーグ監督)はとくに興味深い。新種のウイルスによる感染症がまたたく間に世界中に拡大していくようすを描いた作品なのだが、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレット、グウィネス・パルトロウ、ローレンス・フィッシュバーンといった豪華キャストに興味を惹かれて公開当時、映画館で観た。今回、久しぶりにデジタル配信サービスでみかえしてみたのだが、パンデミックに襲われた社会がどうなるのかを知るうえで示唆的な内容なので、作品の見どころを紹介したい。
あらすじは次の通り(思いっきりネタバレしているので注意)
グウィネス・パルトロウ演じる女性が香港への出張旅行を終えて空港で電話をしている際に咳き込むところから物語は始まる。彼女の症状は急速に悪化し、数日後、激しいけいれんを起こして意識不明となり、病院に搬送されるが亡くなってしまう。そして、世界各国で同時に同じような症状で亡くなる人が急増していることが発覚。1人から10人、100人、数千人、そして数万人と患者は日を追って世界中で加速度的に増えていく。
WHO(世界保健機構)とCDC(米国疾病予防管理センター)が事態の解明と感染症の抑え込みに奔走する。調査の結果、新種のウイルスが豚ウイルスとこうもりウイルスが混ざった変異ウイルスであり、発生源が香港であること、接触や飛沫感染してしまうことなどが判明する。
その後、特効薬となるワクチンが開発され、パンデミックは少しずつ収束していくが、ワクチンが開発されるまで全世界で約2600万人もの死者が出た。
この映画の面白いところは、新種のウイルスによる感染症の世界的大流行を描いた映画にもかかわらず、これまでの数多のパニック映画にある派手な場面がほとんどないこと。パンデミックの発生によって社会に起こりうる事態が無理な誇張なく、淡々と描かれる。パンデミックを起こすウイルスが致死率20%ということが物語の中で明かされるが、これもストーリーが荒唐無稽にならずリアリティを維持するうえで絶妙な数字ではないだろうか。
そして、「ウイルスも怖いが、それと同等かそれ以上に怖いのが、パニックに陥る人間の心理」だということを描いているところ。本作には「恐怖は、ウイルスより早く感染する」というキャッチコピーがつけられている。
そのキャッチコピーを体現している登場人物が、ジュード・ロウ演じるフリーのジャーナリスト、アランだ。アランは人びとの不安を煽る記事を書いて注目を集める。そして、「自分もウイルスに感染したが、レンギョウという生薬を服用して回復した」という動画をネットにアップする。それによって、レンギョウがウイルスに効くと信じた人たちがレンギョウの「爆買い」に走る。しかし、レンギョウがウイルスに効くというのはアランが仕掛けた嘘だった。彼はそもそも感染すらしていなかったのだ。アランはレンギョウの急激な需要の高まりによって発生した利益で莫大なお金を稼いだが、その後、詐欺容疑で逮捕される。しかし、釈放金を支払い、釈放された。
姿の見えないウイルスから生き延びるために常軌を逸した行動を起こす人びとや、パニックを利用してお金儲けをしようとする人びとの姿が、今回の新型コロナウイルスによる感染症拡大で実際に起きているさまざまな騒動とダブって、フィクションとは思えないリアリティを感じた。
そして、ウイルスの起源は何なのかという「謎」だが、物語の冒頭に登場する女性が最初の感染者であることが最後に明かされる。感染経路はこうだ。彼女の勤務していた会社はバナナを栽培していた。そのバナナをコウモリが食べ、糞をした。その糞を食べた豚が感染源だったのだ。その後、その豚は香港に出荷され、あるレストランの調理場でさばかれる。豚肉を調理していた料理人に、件の女性が面会を申し出る。その料理人はあろうことか手を洗わず女性と面会し、彼女と握手してしまう。これが最初の感染となった。
手洗いの重要性を痛感できるシーンなので、ここだけでも一見の価値ありだ。(相)