さいたま市による謝罪と再発防止を強く要求/マスク配布除外問題、学校関係者が担当局長と面談
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さいたま市による備蓄マスクの配布対象から埼玉朝鮮幼稚園が除外されていたことを受け、埼玉朝鮮学園の関係者、保護者、日本の有志たちが連日、市と子どもみらい局に対して抗議活動や要請を行ってきた。申し入れの結果、18日には金子博志・同局長との面談が実現。約1時間にわたって質疑応答と意見交換が行われた。
さいたま市は今月9日から市内の幼稚園、保育園などの職員向けに市の備蓄マスクの配布を始めたが、その対象から埼玉朝鮮幼稚園は漏れていた。埼玉朝鮮幼稚園の朴洋子園長が子ども未来局に問い合わせたところ「朝鮮幼稚園がさいたま市の指導監督施設に該当しないため、マスクが不適切に使用された場合、指導できない」との回答だったため事態を差別問題と認識し、11日から抗議が行われた経緯がある。
13日には配布対象が拡大され埼玉朝鮮幼稚園にも支給が決まったものの、この件に関して清水勇人市長が発表したメッセージでは「朝鮮学校を特定して配布しなかったということではありません」と説明。初期対応への謝罪やヘイトスピーチを助長したことに対する謝罪はなかった。埼玉朝鮮学園の関係者や保護者たちが12日の要請によって取り付けた子どもみらい局・金子博志局長との面談はそのまま実施される運びだったため、ここでの謝罪と再発防止のための意志表明が求められていた。
面談でははじめに、配布対象から外れた経緯について鄭勇銖校長が改めて説明を求めた。金子局長は時系列を辿りながら「マスク自体は子どもみらい局のものではなく市の備蓄。それを出すとなると説明責任が生じるので、はじめは市が指導できる環境にある施設を対象とするという基準を設けさせて頂いた」と返答。また、清水市長のメッセージ同様「朝鮮幼稚園を意図的に除外するような意思決定はしていない」旨を強調した。
鄭勇銖校長は、先週から学校に寄せられている多くの市民たちからの激励メッセージを紹介。「さいたま市の今回の対応は明らかに差別に他なりません」「さいたま市民として、たいへん残念に思っています」という言葉まで寄せられた旨を伝え、これに対してどう思うかと質問した。
しかし、金子局長は「市民からこのようなメッセージがあったのは、私的にはいい話…いい話という言い方は表現が悪いかもしれませんけど、心配している方や、いわゆる差別のない社会の実現を思っている方々がいらっしゃるというのは良かったなと思います」とまるで他人事のように返した。
その上で、「ただ、市の備品を渡すにあたって説明責任が出てしまうというなかで、これらの話と私たちがマスクを配らなかったという話は直接つながらないと思う」と、あくまでも責任はないという態度を貫いた。
ここで鄭勇銖校長は「私たちが憂慮するのは、今後もし災害があった時に、なにかの基準で自分たちが外されないかということだ」と問題提起。金子局長が「そこまでのお話になってしまうと私の方からは言えない」と答えると、一同あっけにとられたような沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは埼玉朝鮮幼稚園の朴洋子園長だ。
「普通に投げかけた言葉をなぜ普通に受け取ってくれないのかなと疑問。結局、子どもの所属で優先順位が決まってしまうのかなと思ってしまう。個人ではなくて行政として是正してほしい。もし災害があったらというのはあくまでもifだが、でも今回の新型肺炎はそういう災害的な状況ではないのか? 私たちはそのように捉えているから訴えている。対策を立ててほしい」と再発防止に向けて呼びかけた。
この問題について13日から要請を行っている「誰もが共に生きる埼玉を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会」もふたたび要請書を提出し発言。
共同代表の渡辺雅之さんは、「コロナはやがて去るが、私たちの社会に差別は残る」としながら、▼市職員の当初の発言(不適切に使用された際、指導できない)がヘイトスピーチに抵触することを認め、朝鮮学校幼稚部に対する真摯な謝罪を行うこと、▼現在おこってしまっているヘイトスピーチに対して、さいたま市が差別を許さないという姿勢を表明すること-を求めた。
「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉」の斎藤紀代美代表は、清水市長と金子局長宛てに「埼玉朝鮮学校幼稚部への備蓄マスク配布除外問題における差別への謝罪と再発防止策を求める請願書」を提出。
斎藤さんは、マスク配布の対象から朝鮮学校を除外したことの根拠として子どもみらい局が示したものが幼保無償化に関する法律(子ども・子育て支援法第58条の4 第1項、第2項)であったことを明らかにし、「今回のマスク配布の支援とまったく関係のない法律、根拠にもならない、線引きに使ってはいけない、そういう法律を持ち出した。反省すべき」と口調を強めた。
その上で、▼当初の線引きが差別的措置だったと認め、関係者に苦痛を与えたことに対し謝罪すること、▼今回の措置がヘイトスピーチを助長したことを重く受け止め、謝罪とともにヘイトを止めるよう市長声明を出すこと、▼二度とこのような差別的措置を繰り返さないために第三者委員会を設けること-の各事項と、これに対する回答を求めた。
しかし、文書での回答について金子局長は「それは別の話ですので」と明言を避けた。請願書への回答は、罰則はないとはいえ法律で決まった責務である。非常に不誠実な対応に、当事者側からは怒りの視線が注がれた。
面談終了後、埼玉朝鮮学園がコメントを発表。コメントでは、一連の出来事が報じられて以降、埼玉朝鮮幼稚園にヘイトスピーチが殺到しており、「(市側に当初から朝鮮幼稚園を除外するような)意図がなかったとしても、公正公平であるべき市の対応として重大な失政であった」とのべた。その上で、ヘイトスピーチや差別を抑止するための、さいたま市による声明発表など積極的な措置を取ることを強く求めた。
「金子局長の個人的見解以外で謝罪は何もなかった」。朴洋子園長は報道陣に向かってそう話した。「しかし声を上げない限り何も変わらない。今回、声をあげたから変わったことがあると思う」としながら、メディアの役割と世論喚起の重要性を強調した。
清水市長は13日の記者会見にて「抗議があったから対応したのではない」と話したとされているが、埼玉朝鮮学園の関係者や保護者の中には迅速かつ粘り強い抗議とそれによる世論の高まりが影響したとみる人が少なくない。事実、この間にさいたま市役所へは一日100件を超える電話、FAX、メールが寄せられている。その多くがマスクの配布除外に対して是正を求めるものや、行政による差別を批判する内容のものだ。
マスクは配布されたが、残る課題は謝罪と再発防止だ。埼玉朝鮮学園と日本の有志らが求めたように、市側の責任はまだ終わっていないと言える。(理)