5.18から40年、「いくら話しても…」
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軍部独裁に反対し、民主化を求めて民衆が立ち上がった1980年5月の光州民主化抗争(5.18)から今年で40年。
朝鮮のことわざにしたがうなら、40年は江山が4回も変わるほどの月日だ。犠牲者、被害者の名誉回復が進み、5月18日は民主化運動記念日に指定された。しかし、5.18の真相はいまだ全面的に明らかになっていない。そして、5.18に関する歪曲、偏見の言説が近年ますます幅を利かせるようになっている。デモを武力で鎮圧し、多くの民衆を虐殺した全斗煥元大統領らに対する責任追及の動きも途上だ。
そんな中で最近読んだ5.18関連本を紹介したい。
『아무리 얘기해도:만화로 보는 민주화운동 5.18 민주화운동(いくら話しても 漫画で見る民主化運動-5・18)』(マ・ヨンシン作、チャンビ、2020)。韓国の民主化運動の歴史を記憶し、運動に携わった人びとの思いを若い世代に伝えようと「民主化運動記念事業会」が企画した「漫画で見る民主化運動」シリーズ全4冊のうちの1冊だ。
本書は漫画ということもあり、数ある5.18関連本の中でも「変化球」的要素が強い。
物語は1980年5月からではなく、2020年のソウルのある高校から始まる。ある男子生徒が、5.18当時のデモ参加者が北から派遣されてきた特殊部隊員であるというネット上のデマ写真を閲覧していたところ、担任の教員にとがめられる。教員は、授業時間に5.18民主化抗争が起こった背景や当時、光州に投入された戒厳軍が行った残虐行為、そして現在までも虐殺の真相が究明されていない問題点などをいちいち説明するが、主人公の生徒は聞く耳を持たない。フェイクニュースを信じる自身の愚かさよりも、自分を「イルベ」(韓国版「ネトウヨ」)だと誤解する周囲に問題があると考える。俗っぽい言い方をすれば、「こじらせてしまった」のだ。
「いくら話しても」、外部からの声に耳を塞ぎ、自分の見たいものだけを見て自分勝手な虚像をふくらませていく男子高校生の姿は読者に嫌悪感を抱かせるが、その一方で、読み手である私たち自身に対して、フェイクニュースに惑わされ事実をゆがめたことはないのかという問いも投げかけている。
本書は、1980年5月の光州で一体何があったのか、過去の事実を描くことだけにとどまるのではなく、現在にいたるまで5.18がどのような勢力によってゆがめられてきたのか、なぜ歪曲が繰り返されるのかを問いかける。
虐殺の歴史がゆがめられ、フェイクニュースが幅を利かせるというシチュエーションは、ここ日本でも珍しくない。そういう意味でも、本書の内容はタイムリーだ。(相)