「朝鮮幼稚園にも幼保無償化を」「朝鮮大学校も学生支援緊急給付金の対象に」―北海道・東北の朝鮮学校関係者、朝大学生ら要請
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幼児教育・保育の無償化制度(以下、幼保無償化制度)から朝鮮幼稚園など各種学校認可の幼保施設が除外されている問題と関連して、各地の朝鮮学校関係者らの関係府省に対する要請が続いている。16日には宮城、北海道の朝鮮学校関係者や日本の支援団体代表ら13人が参議院議員会館(東京都千代田区)を訪れ、各種学校認可の幼保施設にも適用するよう内閣府、文部科学省、厚生労働省の関係3府省に対して要請した。
要請活動には、紹介議員である国民民主党の徳永エリ参議院議員をはじめ国民民主党、立憲民主党所属の衆参の国会議員9人が同席した。
これに引き続き、朝鮮大学校の学生、教員6人が新型コロナ感染拡大の影響で困窮する学生への支援として日本政府が発表した「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金(以下、学生支援緊急給付金)」の対象に朝大の学生も含めるよう求める要請活動を行った。
幼保無償化関連の要請では、昨年から行われてきた「100万人署名運動」を通じて北海道、宮城、青森、秋田、岩手、山形の各県で集められた46935筆の署名を関係府省の職員に提出。
学校法人宮城朝鮮学園の玄唯哲理事長(東北朝鮮初中級学校校長)が「東北朝鮮初中級学校の教育活動を支援する宮城県民の会」の工藤章人代表との連名で安倍晋三・内閣総理大臣、衛藤晟一・内閣府特命担当大臣、萩生田光一・文部科学大臣、加藤勝信・厚生労働大臣にあてた要望書を読み上げた。
玄理事長は、幼保無償化制度から各種学校の外国人学校幼保施設を除外したことは、「『政治的、経済的または社会的関係において差別されない』とする日本国憲法や『いかなる差別もなしに権利を尊重し確保する』とした子どもの権利条約などの国際法に反する不当な措置」だと指摘した。
玄理事長はまた、新型コロナウイルス感染拡大の中で生活困窮に直面し、学業の継続が危ぶまれる学生を対象に「学生支援緊急給付金」制度が制定されたが、外国人留学生のみ「成績優秀者」というくくりを設け、朝鮮大学校の学生たちもこの制度から除外したことを批判。▼各種学校も無償化対象と認め、朝鮮学校幼稚部のすべての園児たちの保育料を無償化すること、▼外国人留学生と朝鮮大学校学生たちを「学生支援緊急給付金」制度の対象とすること、の2点を要請した。
続いて、「宮城県民の会」の工藤章人代表、北海道朝鮮学園の申京和副理事長、西東京朝鮮第1初中級学校付属幼稚班の方香織主任、平和フォーラムの藤本泰成共同代表がそれぞれ発言した。
申京和副理事長は、長年、朝鮮学校の教員をしてきた自身の経験について話しながら、「JR定期券割引、高体連加盟、国立大学受験資格、そして高校無償化除外。これまで朝鮮学校で学ぶ子どもたちが受けてきた差別はたくさんある。朝鮮学校の子どもたちは日本学校の子どもたちと同じスタートラインにも立たせてもらえない。要請の内容を読んで、署名してくれた人びとの心をくみとって、子どもたちの新しい未来を切り開いていただきたい」と訴えた。
要請を受けた各府省担当者は、「重く受け止めている」「府省内で共有して、しっかり考えていきたい」などと従来と同様の回答に終始した。
この日の要請の場には、徳永エリ参院議員、城井崇衆院議員、伊藤孝恵参院議員、横沢高徳参院議員(以上、国民民主党)、石橋通宏参院議員、水岡俊一参院議員、岸真紀子参院議員、石川大我参院議員(以上、立憲民主党)、芳賀道也参院議員(無所属)が同席した。議員からは、「子どもの学びや育ちに線引きをするようなことがあってはならない」という声が相次いで上がった。石橋議員は、「なぜすべての子どもたちのための制度から朝鮮学校の子どもたちが除外されるのか。差別は決してあってはいけない。関係府省から『重く受け止めたい』という話があったが、受け止めて何をするのか。幼保無償化については今日始まった話ではなく、昨年からずっと再検討をお願いしている話。今まで何を議論してきたのか、ここで説明すべき」とのべた。
「朝鮮大学校も『学生支援緊急給付金』の対象に」:朝大学生、教員ら要請
引き続いて行われた、朝鮮大学校を「学生支援緊急給付金」の対象とするよう求める要請では同大の金正浩教務部長が、東京朝鮮学園の金順彦理事長、朝大の韓東成学長と同大学生委員会の李舜委員長名義で内閣総理大臣、文部科学大臣にあてた要請書を読み上げた。要請書は要旨、以下のような内容となっている。
新型コロナウイルスの感染拡大により社会経済活動が停滞する中、生活困窮に直面し、楽号の継続が危ぶまれる学生が著しく増加しているが、朝鮮大学校の学生もその例に漏れない。本学の学生には公的な奨学制度が適用されておらず、また保護者の多くが中小零細企業に従事する低所得層であるため、アルバイトをする学生が大半を占めている。そのうえ、朝鮮高校が高校無償化制度から除外されているため、学生本人のみならずその妹弟たちの学費負担も各家庭に重くのしかかっている。
新型コロナウイルスの感染拡大は、元来、経済基盤などの諸条件がぜい弱である本学学生の学びの環境を大きく揺るがしている。にもかかわらず、日本政府が困窮学生への支援策として打ち出した「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」の対象から除外されている。
安倍首相は6月8日の参院本会議で本学を「緊急給付金」の対象外とした理由について、各種学校であり、これまでの制度と同様の扱いをした旨、答弁している。また、文科省は5月29日、市民団体の要請に対して、各種学校である朝鮮大学校が高等教育機関であるとの担保がないと説明している。しかし、1998年に京都大学が本学卒業生の大学院受験を認め、合格したことを契機に、翌99年8月、文科省が学校教育法施行規則を改正して大学院入学資格を拡充し、外国大学日本校とともにその卒業生に大学院入学資格を認めており、2012年には本学卒業生にも社会福祉士および介護福祉士の受験資格が認められるなど朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認める法制度がすでに存在している。
既存の支援制度から除外され続けてきた本学は、今般のコロナ禍においてさえ、「これまでの制度と同様の取り扱い」によって「緊急給付金」からも除外された。このような扱いは、本施策の趣旨に背き、日本が締約国となっている人種差別撤廃条約、自由権規約および社会権規約とも相容れない。テンプル大学日本校など学校教育法上の「1条校」でない外国系の8校は「緊急給付金」の対象となったが、朝大に対しても高等教育機関としての実態に即して判断されるべきだ。
コロナ禍による困窮からの救済と学びの継続をうたう「緊急給付金」の趣旨にしたがって、朝大の学生にも差別なく公正に「緊急給付金」を支給するよう求める。なお、支給のための第二次推薦の締切日が7月31日に迫っているが、朝鮮大学校を対象とする際、手続きのための十分な時間が与えられるよう求める。
要請内容が伝えられた後、朝大で学ぶ現役の学生たち3人がそれぞれの思いをぶつけた。
外国語学部の女子学生は次のように話した。
実家が飲食店で、今回の新型コロナウイルス禍によって受けた打撃は大きい。自分自身もバイトができない、緊急給付金ももらえないとなると、学業を続けていけるのかいよいよ不安でたまらない。家業の収入が減って生活が厳しいという状況は日本の大学生も朝鮮大学校の学生も変わらないのに、朝大が露骨に除外されているのが悲しい。厳しい経済状況に置かれている学生は私以外にも多くいる。遅れることがあっても、必ず朝大生にも給付金を支給していただきたい。
朝鮮大学校の学生や日本の大学に通う留学生らが立ち上げた「在日外国人学生の学びの権利を考える会」が発起団体となり、日本に住むすべての外国人学生に学生支援緊急給付金の制度適用を求めるインターネット署名」が13日夜から始まった。16日までに集まった6809筆の署名が、要請に応対した文科省の職員に手渡された。署名は7月25日が最終の締め切りとなっており、追加分を再度提出する予定だという。
要請を受けた文科省の担当者は、「いただいた意見は持ち帰って省内で共有している」「高等教育機関としての質が担保されていないと言っているわけではない」「線引きの外にある学びを否定しているわけではない」などと回答。
これに対して朝大側は、▼前回(5月29日)の要請以降、今日まで文科省内でこの問題がどのように検討されてきたのか、▼給付金支給の対象から朝大が除外されている理由としては、既存の制度の対象に朝大がなっていなかったので今回も同じ扱いとした、高等教育機関としての担保がとれないという2つが挙げられているが、実態として質の担保が取れているのであれば、実態に法を接近させることで救済は可能なはず。文科省はなぜそうしないのか、と迫った。
要領を得ない文科省側の回答に、日本の市民団体メンバーらが声を荒げる場面もあった。(相)