10月16日の傍聴券
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既報のように、さる16日に広島朝鮮高校無償化裁判の控訴審の判決が言い渡され、一審に続いて原告側(広島朝鮮学園と広島朝鮮初中高級学校の卒業生109人)の敗訴となった。
この間、取材で何度も通った302号法廷。勝っても負けても、広島で裁判を傍聴するのはこれが最後の機会になる。そう思うと、何とも形容しがたい感情が胸に込み上げてきた。
この日、一般の傍聴者に割り当てられた傍聴席はわずか16席。元々が40席ほどの法廷だが、新型コロナウイルス感染防止対策によって、通常の半分ほどの席しか使われない。記者クラブ所属の記者用に確保された席も除くと、本来の半分以下の席数しか一般傍聴者には割り当てられない。そして、この16席を求めて193人が抽選に並んだ。
倍率は12倍。決して低くはない。抽選に外れた場合でも傍聴券を譲ってもらえるよう原告側関係者に話をつけてあったので、法廷に入れないという心配はなかったのだが、「自分が傍聴する席くらい自力で確保してやる」とばかりに意気込んで抽選に臨んだ。
2012年に大阪の補助金裁判が、2013年に朝鮮高校無償化裁判が始まって以来、今日まで一連の朝鮮学校関連裁判を法廷で傍聴した回数は優に20回を超える。傍聴券の抽選の勝率は5割をクリアして、6割から7割の間はいっているはずだ。
今回も倍率12倍を見事クリア。「どうせ手に入るのだから、こんなところで運を使わなくても」と心の中で思いつつ、自分のくじ運の強さにもびっくりした。
今回の判決言い渡し期日の傍聴券だが、今も手元にある。通常であれば、裁判傍聴を終えて法廷から出る際に係員が使用済み傍聴券を回収することになっている。これまでの裁判傍聴では閉廷後、傍聴券を欠かさず係員に渡していたのだが、今回は裁判所前での「旗出し」の写真撮影に備えるため裁判長による判決要旨の朗読の途中で退廷し、傍聴券も係員に渡すのを忘れてしまったのだ。
たぶん、最後の傍聴取材になるであろう期日の傍聴券が意図せず手元に残ったという事実に何か不思議な縁を感じた。
「記念」とポジティブに表現するにはあまりにも苦い記憶が刻まれた傍聴券。この苦い思いを決して忘れるな、という意味で手元に残されたのだ、と思うようにしよう。
足掛け7年半にわたる高校無償化裁判闘争もいよいよ大詰めを迎えようとしている。日本各地5ヵ所で提訴された裁判のうち、東京、大阪、愛知の3ヵ所では最高裁の上告棄却の判断が下され、原告側の敗訴が確定している。広島は最高裁へ上告。残る九州(福岡)は30日に控訴審の判決が言い渡される。
私たちメディアの側も、裁判の結果を報じる段階から裁判闘争を総括する段階へと進む時期に来ているのかもしれない。(相)