新大久保に「朝鮮学校」ステッカー?/仕掛け人の포차발を突撃取材!
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11月中旬、東京・新大久保にあるいくつかの韓国料理店に「朝鮮学校を知ってますか?」と書かれた見慣れないステッカーが貼られた。見ると「포차발」のロゴとQRコードが。포차발って? 朝鮮学校を支援する団体なの? どうして新大久保に? -そこに集う人々を訪ね、話を聞いた。
포차발(ポチャバル)ってなに?
大久保通り沿いにある韓国料理店「新宿ポチャ」を訪ねた。ここに、포차발-「朝鮮学校を知ってますか?」のステッカーを発案した人々-がいるという。まずは、포차발がどんな集まりなのかを聞いてみる。
「포차발は、団体や組織ではありません。日・朝・韓を中心に、平和に関心のある団体や個人が自由に集まり必要な時に助け合う『場所』、『機会』、そして『おいしい料理』を提供するコミュニティのようなものです」
そう話すのは川崎隆章さん(56)。포차발のHPやFacebookページの管理と発信を務めている。포차발という名称は、韓国にある「포장마차(ポジャンマチャ=屋台)」の略語に、“ここから始めよう”という思いを込めて「발(バル=発)」をつけたもの。
もともと、新大久保で韓国料理を食べ、お酒を飲みながら語り合う数十人の仲間がいたことがきっかけ。その場には在日朝鮮人も韓国人もいたが、大半が日本人。所属も趣味嗜好もばらばらながら、おいしいものを一緒に食べて気楽な交流をしていたそうだ。
回を重ねるごとにそれぞれのバックグラウンドに関する話題が深まり、相互理解の入口につながっていった。常連客とそうした会話をよく共にしていた「新宿ポチャ」の店長であるクォン・スナクさん(52)も在日朝鮮人の境遇に共感をよせ、いま朝鮮学校で学ぶ子どもたちへの想像力を持つようになった。
「自分が日本に来たのは20年以上前で、在日朝鮮人の先輩たちにお世話になったこともある。そんな方たちの子どもや孫の世代が差別を受けていると知った。だから、この集まりで何か朝鮮学校支援の取り組みをしようと話しているのを聞いた時、とても良いことだし、ぜひ自分も参加したいと声を上げた」(クォンさん)
まずは発信母体に名前をつけようと、2020年7月に포차발を結成。以降、月に1度の交流食事会を持ちながらメンバーを増やし、一方で朝鮮学校支援のアイデアを募った。ステッカーのデザイン、フレーズについて意見を交わし、11月に実物が完成した。
お披露目会場は「新宿ポチャ」。クォンさんは、満足気な顔でお店の入口・店内・トイレの扉にステッカーを貼っていた。
知らない人を取り込んで
同日、続いて向かったのは職安通り側の路地内にある韓国料理店「テンチョ」。こちらも포차발がよく利用するお店で、ステッカーのことを話すと快く賛同してくれたという。
ステッカーを新大久保から広げていく理由は、포차발のそもそものはじまりが新大久保だったこともあるが、「いまの日本社会において、韓流好きの人が一番“コリア”に入ってきやすいから」だと、メンバーの金在浩さん(45)は説明する。
「朝鮮学校のことを正確に知らない人が多い。ひとまずいろいろなところに貼って、『どこに行ってもこのステッカーを目にするね』と疑問を持ってもらい、そこから知ることにつなげるのが狙いです」(金さん)
これは、「韓流ブーム」の浸透と比例するかのように在日朝鮮人への無理解が広がる状況を打破することにもつながる。だからこそ、日常にちょっとしたきっかけを作り、一般の人たちと手をつなぐことの大切さに思い至った。
同時に、ステッカーを貼ってもらうよう交渉する過程で、ニューカマーである韓国の同胞たちにも連帯してほしいという思いがある。「テンチョ」の店長であるクァク・チニョンさん(45)も、포차발の理念に共感した一人だ。
「自分は、何よりも韓国人に朝鮮学校のことを伝えたくて協力しようと思いました。韓国人は『朝鮮学校』と聞くと、北と南に分けたイメージを持ってしまう。でもシンプルに、いま日本には困っている同胞の子どもたちがいて、その子たちを助けたいと伝えれば、そこから実際の人間を知ることができる。韓国人が知れば、もっと知らない日本人に教えることもできる」(クァクさん)
飲み仲間から共に歩む仲間へ
ステッカーのデザイン調整や印刷関係を担当した牧野健太さん(38)は、これまで朝鮮学校とはまったく接点のなかった一般の経営者。金さんと居酒屋で知り合い、飲み仲間になる過程で少しずつ在日朝鮮人のことや朝鮮半島のこと、朝鮮学校のことを理解していった。
「ここに来るとみんな優しいし楽しい。来ると自分の知らないことが知れる」。そんな純粋な思いで活動に携わっている。
포차발には、牧野さんのように偶然つながった人、韓国文化に興味のある人、朝鮮学校支援の活動をしている人…さまざま層が参加している。
「共通項があるとしたら、みな平和を願う人たちという点です。そのためにはいろいろな話をして協力する必要がありますが、まずは『この料理おいしいね』、そう言い合えるくらい仲良くなってから」。川崎さんをはじめとする、포차발に集う皆の感覚だ。
포차발らしさを感じさせるエピソードがある。ある日、メンバーの一人がグループLINEで助けを求めた。自身のSNSで差別反対に関する投稿をしたところ、友人から否定的なメッセージや活動を非難するメッセージが届いたという。
「私のようなただの日本人が朝鮮半島に関わること自体ダメなのでしょうか?」という呟きに返されたのは、「迷うことはありません。〇〇ちゃんは自信を持ってください。それは『誰でもできる支援を率先してやってる』からです」との言葉。
「いろんな行動に参加するのも、小さなグッズ一つ買うのも、立派な支援だし、比べることに何の意味もありません。今できることからやって、だんだん支援のやり方を学んでいけばいいではありませんか。あなたの信じる仲間と歩みましょう。大丈夫」
グループLINEにはその後も、次々とメンバーを応援する言葉が投稿された。少しずつ立ち位置の違う人たちが、親交を深める過程で大きな理念を共有し、それぞれができる方法、使える言葉で活動に参加する…。柔軟さの中で芽生えた強い結束をのぞかせた。
● 포차발のHPはこちらから
朝鮮学校支援ステッカーは1枚1000円で販売中。売上は朝鮮学校に寄付される。現在、少しずつ賛同店を増やしている。問合せや活動の詳細はHPから。