2020年映画、私的ベスト10
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2020年も残すところあと2週間あまり。私のブログ更新も今回を含めてあと2回。今回は、昨年に引き続いて、2020年に日本国内で劇場公開あるいはオンライン配信された映画の中から私的ベスト10を選んでみた。
●『パラサイト 半地下の家族』
今年最初に観た映画がこれ。先行上映中だったTOHOシネマズ日比谷に足を運んだのは新年1月2日。観終わった瞬間、正月早々テンションが上がり、私的・今年の映画ベスト10入りを確信した。韓国映画初となるパルムドール受賞作という触れ込みで公開されたが、米アカデミー賞でも外国語映画として史上初となる作品賞を獲ってしまった。新聞、雑誌やウェブ上に掲載されたさまざまな批評も大変勉強になった。
●『ジョジョ・ラビット』
ナチスドイツものは映画界で最もポピュラーなジャンルの一つだが、この映画はひと味違う。主人公である10歳男の子の目を通して見た「戦争」。心優しき少年がユダヤ人少女との出逢いや迫害の現実を通して、1人の人間として成長していく姿がユーモラスに描かれている。反戦へのメッセージもしっかりと盛り込まれている。
●『黒い司法 0%からの奇跡』
犯してもいない罪で死刑囚にされた黒人と、彼を救うため戦い続けた黒人弁護士の物語。「黒人であること自体が、罪になる」。信じがたいかもしれないが、本作の舞台となった1980年代の米国の純然たる現実だ。そして、米国の状況を見ればわかるように、それは2020年の今にも脈々と受け継がれている。
●『CURED キュアード』
ゾンビ・ウイルスに感染した人びとが治療によって治り、社会復帰したら…。ウイルスパンデミックが収束した後の世界を舞台に、ウイルス感染から回復した人びとが感染時の記憶や社会との軋轢に苦しむという設定が秀逸。「回復者」に向けられる差別や排除も描かれ、コロナ禍の中で期せずしてタイムリーな作品になった。
●『白い暴動』
1970年代後半の英国で、音楽を通して人種差別撤廃を主張し続けたムーブメント「ロック・アゲインスト・レイシズム」に迫ったドキュメンタリー。人種差別がいまだ世界中にはびこる今こそ見るべき作品。ザ・クラッシュ、トム・ロビンソン・バンド、出てくるアーティストがみなカッコいい。クライマックスのライブ映像、10万人の熱狂に胸が熱くなる。
●『マルモイ ことばあつめ』
1940年代の日本による植民地統治下の朝鮮半島。失われていく朝鮮語を守るために命がけで辞書づくりに取り組む人びとの熱いたたかいに目頭が熱くなった。非識字者のバンスが仲間たちとの辞書作りを通して朝鮮語を学び、母国の言葉の大切さに気づいていく過程にグッとくる。歴史を作るのは、ごく普通の人々なのだ。
●『はりぼて』
富山のローカル局チューリップテレビが地方政治の不正に挑み、人間の狡猾さと滑稽さを浮き彫りにしたドキュメンタリー。同局のスクープ報道により、富山市議会議員たちの不正が次々と判明し、半年間で14人もの議員が辞職する事態になる。これは本当に現実なのか。スクリーンに映る議員たちの姿は滑稽で、思わず笑ってしまうのだが、これが日本の政治の縮図なのかと思うと暗澹たる気持ちにさせられる。今年観たドキュメンタリーの中ではナンバーワン。
●『TENET テネット』
クリストファー・ノーランが好きだ。ノーラン作品には賛否両論あるが、『メメント』も『インセプション』も『インターステラー』も何度も見返すフェイバリット作品だ。池袋のグランドシネマサンシャインの超巨大IMAXスクリーンで本作を観たが、劇場での映画鑑賞体験という点で言えば、今年一番の衝撃だった。2回リピートしたが、一度ここで観てしまうと、ほかのIMAXシアターでは観られない。
●『シカゴセブン裁判』
Netflixオリジナル映画。ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された7人の男性の裁判の行方を描いた実録ドラマ。作品自体の質の高さはいわずもがな、米大統領選を約1ヵ月後に控えた時期に配信が始まったというタイミング、そしてブラック・ライブス・マター運動が盛り上がりを見せているという世相を象徴する作品となった。
●『Mank/マンク』
現時点で最新の鑑賞作品がこれ。こちらもNetflixオリジナル。Netflixが映画界を席巻する日は近い。デヴィッド・フィンチャー監督が「映画史を変えた不朽の名作」と称される『市民ケーン』の知られざる誕生秘話に光を当てる―これだけで間違いなく面白いと思わせてくれる。そして、実際に面白い。
今年は新型コロナウイルス感染症の世界的大流行という未曽有の事態に直面し、映画館も営業自粛が相次いだ。公開を延期する作品も多々あり、劇場で鑑賞した作品の数は例年に比べて少なかった。その分、メディア向けのオンライン試写などもあって、ベスト10を選べるくらいには作品を鑑賞できたと思っている。
昔ほど映画鑑賞に割ける時間が少なくなった。劇場、試写室、そして自宅と映画を見る場所はさまざまだが、2時間という時間を使って映画の世界に没頭できる幸せを感じている。(相)