入管法改悪反対、座り込みと院内集会
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日本政府は今年2月19日、出入国管理法の「改正案」を閣議決定した。非正規滞在の外国人の入国管理施設での収容が長期化している現状を改善するとして、退去強制命令を受けた外国人の早期退去を促す施策や、収容施設外での生活を可能にする新たな制度を盛り込んだとしている。
この「改正案」の主なポイントとしては、難民申請すると回数や理由を問わず送還されなくなる規定(送還停止効)に例外を設け、3回目以降の申請で新たな相当理由がない場合などには適用しないとしていること。また、逃亡の恐れが低い人を対象に施設外で生活できるようにする「監理措置」が導入され、親族や支援団体などが「監理人」になり、生活状況の届出などの義務を負うとした。一方、退去命令に従わない場合の刑事罰を新設(1年以下の懲役・禁錮もしくは20万円以下の罰金)した。
この「改正案」に対して、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」をはじめとするさまざまな市民団体が非人道的だとして強い懸念を表明している。これらの団体が問題点として指摘しているのは、オーバーステイなどで退去強制令書を発付された外国人が自ら退去しないことに対し、刑事罰(退去強制拒否罪)が適用されることだ。また、難民申請を3回以上行った申請者を自国に送還することも可能となる点も問題視している。監理措置制度についても、誰が対象となるかを決めるのは入管で、その基準もはっきりしていない。また、収容施設から出ることができても就労は認められず、生活手段が確保できない点にも懸念を表明している。
現在、国会で法案の審議が行われている。移住連などの市民団体は審議終了までの間の法務委員会開催日に国会前で入管法改悪に反対する緊急アクションとしてシットイン(座り込み)を実施している。
4月21日のシットインでは、正午からマイクアピールが行われた。
牛久の東日本入国管理センターに収容されている外国人の面会活動を行っている「牛久入管収容所問題を考える会」代表の田中喜美子さんは「改正案」の問題点を指摘。「本国に帰りたくない人はたくさんいる。こういう人をいじめ抜いて何が楽しいのか。入管は、どうあっても本国へ帰れない事情を抱えている人びとに特別在留許可を与えるべきだ。日本は国際化や共生といった価値からは一歩も二歩も遅れている。その傾向をますます強くするのが、今回の入管法の改正という名の改悪案である」とのべた。
ジャーナリストの安田浩一さんは次のように発言した。
外国人をめぐる政策は社会のリトマス試験紙である。法案審議の過程から浮かび上がってきたもの、法案の中身から浮かび上がってきたものとは、日本における外国人政策の立ち位置だと思う。日本に外国人政策というものはそもそも存在しない。外国人を管理、監視する仕組み、外国人を追い出す仕組みはあっても、外国人の命と人権をきっちり保障する仕組みはほとんどない。2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されて、ヘイトスピーチは許されないという法的枠組みはできたが、実効性はどうか。日本にはまともな外国人政策なんてそもそもない。「出ていけ」と街頭で外国人にヘイトスピーチを投げつけるような人間と、法の枠組みの中で外国人を追い出そうとする国家、両者のどこが違うのか。
入管は戦前、内務省の管轄だった。特高警察を抱えた部署が入管政策も担っていた。戦後しばらくの間、入管の対象は在日コリアンだった。国にとって不必要だと判断した集団をいかに追い出すのか、そのために入管が機能してきた。終戦直後には特高警察だった人間が入管政策に携わってきた。その体質が今も残っている。
ある外国人が、入管は警察よりも怖いと言っていた。警察は逮捕の際にまがりなりにも裁判所の許可を得ているが、入管は自分たちが判断すれば勝手に身柄拘束できるし国外へ追い出すこともできる。司法が介在しない。そんな中で外国人の命と人権がおろそかにされている。入管法は、命と人権を保障するためにこそ変わらなくてはいけない。
ほかに、社民党党首の福島瑞穂参院議員、小説家の温又柔さん、20代の大学生たちもマイクアピールを行った。東京入管で収容者の面会活動を行っている織田朝日さんは、「人は、いたい場所にいていい、生きたい場所で生きていい。法務省の人たちや入管の偉い人たちは、少し考え方を変えればビザのない人たちを幸せにできる力を持っているのに、それを悪い方向に使っている。そんな法案は廃止すべき」と訴えた。
当事者やその家族たちもマイクを握った。仮放免者の日本人配偶者の女性は、「夫の住民票が役所に登録されていないために、健康保険に加入することができず、病院にかかろうとすれば医療費が10割負担になる。銀行のキャッシュカードの再発行もできない。国籍が違っても、肌の色が違っても、使う言語が違ってもみんな赤い血が流れた同じ人間だ。私たちは刑事罰や強制送還を望んでいない。どうか助けてください」と訴えた。
これまで入管に3回収容され、送還未遂も経験したというイラン人男性は、「この法案が通れば、外国人は呼吸すらできなくなってしまう。みんなで団結して戦おう」と呼びかけた。
「差別をやめて」「ビザを出して」「殺さないで」。当事者たちの、聞く者の心を揺さぶる、魂の叫びにも似た訴えが続いた。
「SDGsや人権といった気持のいいコマーシャルを流し、オリンピック・パラリンピックを通じてそのような社会を作るかのようなことを言っているが、実際はどうなのか、誰一人取り残されない社会づくりを、この入管法の改悪はつぶそうとしている。投票できない人、声を上げることのできない人のことを考える、そこに目を向ける。民主主義の根本、神髄はそこにある。『入管法改悪反対』はネガティブな意味ではなく、誰一人取り残されない社会を作るための、次世代のための反対だ」。移住連代表理事の鳥井一平さんが最後に発言し、マイクアピールを締めくくった。
22日には「入管法改悪反対!緊急院内集会~移民・難民の排除ではなく共生を~」が参議院議員会館で行われた。
集会には、「#FREEUSHIKU、SAVE IMMIGRANTS OSAKA、公益社団法人 アムネスティ・イ ンターナショナル日本、特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク、外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)、外国人人権法連絡会、人種差別撤廃NGOネットワーク、全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い、全国難民弁護団連絡会議、特定非営利活動法人 なんみんフォーラム、日本カトリック難民移住移動者委員会、入管問題調査会、反貧困ネットワーク、フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)」が名を連ねた。
集会には山花郁夫衆院議員(立憲民主党)ら各党の国会議員10数人が参加。主催者や発言者、国会議員、メディア以外はオンラインでの参加となった。主催者によると、600人近くがオンラインで参加した。
主催団体の代表者らは集会終了後、2月25日から4月18日にかけて集めた入管難民法改正案に反対する署名10万6792筆を法務省に提出した。
集会では、21日の衆議院法務委員会で参考人として発言した児玉晃一弁護士が改正案の問題点などについて説明を行った。児玉弁護士は、従来の収容に代わる監理措置について、「逃亡の恐れがない」など一定の要件を満たせば入管の外で社会生活を送れる制度を作るとしているが、決してそんなことはない、その判断は入管の主任審査官がすることになっていて、監理措置の要件に「その他の事情」や「相当と認めた場合」などが入っているので実質的に何でも考慮できる、これまでの仮放免や収容と変わらないと指摘した。国連のさまざまな委員会が是正の勧告を出している無期限長期収容は改正案でも変わりはないと批判した。
当事者も発言した。ミャンマー出身の難民申請者は、「いまミャンマーに送り返されれば、私は逮捕され、死刑にされるだろう。私は日本で難民として保護され、家族と安心して暮らしていくことを望んでいる。どうか私と家族をバラバラにすることなく、難民として認めてください」とのべた。
10歳の時に来日したクルド人は自身の体験を次のように語った。
はじめて一人で入管に行ったとき、職員から「あなたは日本で学校に通っても就職できないし、時間とお金の無駄なので、国へ帰った方がいい」と言われた。ショックだった。いい成績を取れば認めてくれると思い、勉強に励んだが、次の難民申請の時には「どんなにがんばっても意味がない」とはっきり言われた。その後、学校をやめることまで考えたが、支えてくれた親の気持ちや、日本に来てからの経験を意味のあるものにしたいと思い、勉強に集中した。高2の時、授業で人権について学んだ。自分は日本に住んでいて人権が保障されていないと思い始めた。働くことや保険証の発行などを禁じられていて、人権が保障されているとは言えないと気づき始めた。私は人生の半分を日本で過ごして来た。日本の大学で学び、日本で働きたいと考えている。私はクルド人であることを誇りに思っている。トルコ政府に迫害されているクルド人として、難民として認めてもらいたい。
2016年に父親がペルーに強制送還されたという日本生まれのペルールーツの高校生は、「両親を奪わないで。家族と一緒に日本に住まわせてください」とビデオメッセージで訴えかけた。
つづいて、柚之原寛史牧師が大村入国管理センターの現状についてビデオメッセージで次のように説明した。
大村では2019年6月24日、40歳のナイジェリア人男性が餓死した。昨年2月には、脳卒中を起こし、外の病院で緊急手術した男性が、歩くことも話すこともできない状態のある日、病院から突然姿を消し、今も見つかっていない。
今日、入管で3人の収容者と面会した。一人は、40年前にベトナムからきたインドシナ難民で収容期間は5年9ヵ月におよぶ。国には戻れない、ここからも出られない、助けてください、甲状腺の病気をわずらっているが、入管の医師は大丈夫しか言わないと話していた。
現在、大村入管には33人が収容されている、全員が病人だ。
ある収容者には面会拒否され、差し入れも受け取ってもらえなかった。かれは収容9年目に突入しており、これまでは関係を維持して面会を続けてきたが、経験上、このように自分の世界に入り込んでしまったら大変危ない。入管は人間の精神を破壊する強制収容所のような場所だ。
つづいて、支援団体がこの間のそれぞれの取り組みについて報告を行った。
移住連は昨年から入管法改悪反対キャンペーンを展開し、Q&AやウェブポスターなどをSNSを通じて発信してきた。また移住連として、難民認定制度の整備・改善を通じて適正な難民認定を行ったうえでの在留特別許可の見直し(判断基準、対象範囲、手続き、ガイドライン等)、すでに退去強制令書が発付されているが帰国できない・在留を希望している人々については一斉在留特別許可(アムネスティ)を与えることなどを主に要請してきたと報告があった。
なんみんフォーラム(FRJ)はハッシュタグ「#難民の送還ではなく保護を」キャンペーンに集まったメッセージを紹介。また、3月17日から4月5日まで弁護士や外国人支援団体・個人を対象に行った監理措置に対する意見聴取の結果を発表。回答者の89%が監理措置を評価できないとし、「収容の目的を定めて原則収容を改めるべき」「収容期間に上限を設けて無期限収容を改めるべき」「司法審査を導入すべき」など基本的人権を保障する方向での法改正を求める声が多数寄せられたという。
日弁連からは、国連人権理事会の特別報告者3人と恣意的拘禁作業部会の4者が3月31日に日本政府へ送った、入管法改正案は国際人権法違反だとする旨の共同書簡の内容が紹介された。書簡は、▼収容の目的を定めない義務的な収容、▼収容の決定における司法審査の欠如、▼収容期間に定めのない無期限収容、▼生命や権利が脅かされる国や地域への強制送還を禁止する原則に反する、▼子どものセーフガードが欠如している、の5つの分野で改正案の問題点を指摘している。
最後に全国難民弁護団連絡会議の大橋毅弁護士から「いま真に必要な法改正とはなんなのか」についての発言があった。大橋弁護士は、今回の入管法改正案にこれほどまでに各方面から反対の声が上がっているのは、それが「国際人権条約違反であり人権侵害だから」だと指摘。「難民支援の業務に携わっているものとして、他の先進諸国であれば難民と認定され、安心して暮らしているだろう人びとが苦難の中にいることを知っている。国籍が異なるとか、在留資格を失ったからといって、人を虐げていいとか苦痛を与えていいとか、そういう社会は決して共生社会につながるものではない」とのべた。具体的には、保護(難民認定、補完的保護、在留許可)については▼判断する機関を政府から独立したものにする、▼基準を、国際基準に沿った具体的なものにする、▼手続きを、行政手続法や国際基準に沿ったものにする、▼審査中の人の生活を可能にする、収容については▼拘束の期間や要件の制限をし、裁判所が判断するものに、▼被収容者の医療機関、不服申し立ての審査機関を、収容所から独立させることなどを提案した。
移住連代表理事の鳥井一平さんも、「入管が人の人生を決めていいのか、社会の在り方を決めていいのか。入管法は出入国を管理する法律であって、人の生き死にを決めていいわけではない。移民・難民とは民主主義を体現している人びとだ。その人びとをどのようにもてなし、どのように処遇するのか、民主主義が問われている」とのべた。(相)