「今こそ問う朝鮮文化財の返還問題」/『南永昌遺稿集 奪われた朝鮮文化財、なぜ日本に』出版記念講演会
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朝鮮大学校朝鮮問題研究センターが主催する『南永昌遺稿集 奪われた朝鮮文化財、なぜ日本に』の出版記念講演会が6月26日、朝大とオンラインで行われた。本会場、ライブ配信含め約100人が参加した。
講演に先立ち、朝鮮問題研究センター・金哲秀副センター長が挨拶に立った。
金副所長は2017年、フランスのマクロン大統領が植民地支配を行ったアフリカの国々への文化財返還を表明して以来、ヨーロッパ諸国で、植民地主義、帝国主義時代に不正に入手、略奪された文化財を返還することが、徐々に時代の潮流になっていることに触れ、「奪われた朝鮮の多くの文化財が、日本の博物館、大学、美術館、個人によって所有され続けている事実が日本社会で認識されていないことは、日本のアカデミズムにおいても日本の文化財返還の研究や議論がまだまだ不十分であるという現状を示している」とのべた。
最初の講演では、朝鮮大学校文学歴史学部・河創国教授が、朝鮮民主主義人民共和国の社会科学院・考古学研究所との古墳遺跡共同発掘事業について講演。共同調査に参加するに至るまでの経緯や、発掘事業の内容、最近の発掘調査について話した。
河教授は、自身がはじめて発掘事業に携わった、新石器時代から高句麗時代にかけての大規模集落遺跡である表岱遺跡(平壌市三石区、1996年9月発掘)や、19号住居址(1996年)、古代墳墓である板槨墳(平壌市楽浪区、2004年)など、共同調査に携わった多くの遺跡を写真とともに紹介した。
また、近年の発掘成果として、龍岳山支石墓(平壌市万景台区域、2017年)と高句麗壁画古墳(黄海南道安岳郡月池里、2020年)について解説した。
河教授は、これまで発掘されてきた支石墓は、埋葬部が四角形に作られているのに対し、龍岳山支石墓は、埋葬部が円形・楕円形だということや、高句麗壁画については、徳興里壁画古墳の発掘以来、45年ぶりの大発見となった、封墳、壁画、天井、部屋がきれいな状態で残っているリュチョン古墳や、ヒョンチョン1号墳などについて紹介した。
続いて、慶応義塾大学非常勤講師の五十嵐彰さんが「文化財問題について」と題し講演した。
五十嵐さんは、1925年、日本軍のバックアップのもと東京大学文学部によって発掘され、現在もなお漆戸遺物が東京大学の考古学研究室に収蔵されている石厳里205号古墳(王盱墓)、東京国立博物館に重要文化財、重要美術品として多く収蔵されている金冠や甲冑などの「小倉コレクション」、朝鮮、中国、台湾など諸外国から切り石を集め、大東亜共栄圏の勢力を示すために宮崎県に作りあげた「八紘之基柱(八紘一宇の塔)」(「八紘一宇」は、「全世界を一つの家にすること」を意味し、第2次世界大戦期、日本が海外侵略を正当化するため用いたスローガン)を事例にあげ、文化財返還問題を考える際に踏まえるべき原理原則として、以下の3つをあげた。
- 現地主義:すべて現地に返すこと(不当に持ってきたものであればなおさらだ)。
- 時効不成立:植民地時代の法律に照らして不法ではなくても、文化財の略奪は、道徳的には不当な行いであり、法律上の罪に時効があっても、道徳上、罪の自覚に終わりはない。
- 無償返還:不当に入手したものに、値段をつけてはいけない。等価交換もあってはならない。
また五十嵐さんは、文化財の返還を考える際、「人・物・場」の相互関係を考えるべきだと話す。
「発掘した物は、発掘した場に暮らす人びとの物であり、不当に搬出した品々は本来の所有者の承諾を得ずに一時的に借りているに過ぎない。また、このようにある物を、ある一定の場に『戦利品』として置くことが、武力や戦争で欲しいものを手にすることを肯定することにつながる」(五十嵐さん)
五十嵐さんは、「東京国立博物館やフランスのルーブル美術館をはじめ、あらゆる博物館の展示物をただ賛美する時代から、自らが辿ってきた近代を振り返る時代に移り変わっている」とし、「不当に持ち出された物によって得た利益は不当な利益であり、必ずや償わなければいけない」と力を込めた。
両講演とも、会場とオンラインから多くの質問、問題提起が寄せられ、講演会は盛りあがりをみせた。