”無償化闘争、リスタート!”/「高校無償化裁判・最高裁上告棄却に抗議する福岡県民集会」
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2013年12月から始まった九州無償化裁判。既報の通り、最高裁は5月27日付で上告を棄却した。当事者の声に耳を傾けず、誠実な判断の跡も見えない不当な結果だった。
これを受けて、「高校無償化裁判・最高裁上告棄却に抗議する福岡県民集会」が7月17日、九州朝鮮中高級学校(北九州市)で持たれた。
この期間、どのような思いで裁判運動に携わってきたか、何を感じ、いま何を考えているか。集会では、関係者たちによるリレートークが行われた。
はじめに、朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会の中村元氣代表が主催者あいさつに立った。中村代表は、今日この場で改めて「勝つまで闘う」という意志を確かめ合おうと参加者たちに呼びかけた。
続いて九州無償化弁護団の弁護士たちが登壇した。弁護団の事務局長を務めた金敏寛弁護士は、自身の思いは無償化連絡協議会が発行している「ミレ通信」に寄せたとしながら、所用で欠席となった朴憲浩弁護士のメッセージを代読した。
「この問題を通して感じたのは言葉の弱体化。唯一勝訴した大阪地裁を除いて、この裁判の判決はあまりに読みにくい。屁理屈と強引さに支配され、論理の中に緻密さがない。しかしそのような日本語の使い方が公文書として残され、差別を正当化してしまった。
おりしもこの数年間、為政者がいい加減な発言を繰り返し、排外的な言説が路上やネットに溢れていることは偶然ではない。人を痛めつけ、責任をごまかし、権力を守る言葉ばかりが育ってしまっている。この日本で私たちの正しさを実現するためには、日本の侵略責任を問い、批判精神に満ちた中身のある言葉を紡ぐ作業を継続していくしかない」(朴弁護士)
石井衆介弁護士は、弁護士になった直後に事務所の先輩から紹介されたことがきっかけで九州無償化裁判と出会ったと振り返る。そこで初めて朝鮮学校を取り巻く諸問題を知り、「現代の日本において、こんなことが許されているのか」と驚いた。
自分が学んできた法律のどこを読み返しても、この議論を国が正当化できる根拠はないと考えていたが、度重なる不当判決、そして上告棄却を受けて、「裁判所や日本政府がいかに差別意識に囚われており、実際の姿を知ろうともしていないかを痛感した」と話す。在日朝鮮人が自分らしく生きていける社会の実現に向けて、今後も一緒に頑張りたいとのべた。
同じく当初から九州無償化裁判に携わってきた清田美喜弁護士は、法律のことだけではなく在日朝鮮人や民族教育の歴史を知ってこそ中身のある書面が書けると感じ、手あたり次第に本や資料を買い、朝鮮学校の行事にも積極的に足を運びながら学んでいった日々を振り返った。
清田弁護士はまた、「ウリハッキョ(朝鮮学校)をウリハッキョたらしめているものは愛だと思っている」とのべた。
「ウリハッキョは、在日朝鮮人として愛され、在日朝鮮人として人を愛し、在日朝鮮人として自分自身を愛することができる日本で唯一の環境。ウリハッキョを差別し、攻撃する人たちはあえてそのことを無視し、別の論理をつぎはぎしているだけ。ウリハッキョを正しく知ること、そしてウリハッキョを愛する人を増やすことが私の今の目標。シンプルで小さなことの繰り返しがいつか社会を動かす。小さく、こつこつ社会を動かし、大きな潮目が来る時を待ちましょう」(清田弁護士)
弁護士の発言のあと、九州朝高生によるアピールがあった。生徒たちは、これまでともに闘ってきた人々への感謝を口にしながら、未来を作るのは自分たちだという力強い決意を表明した。
次に、九州朝鮮中高級学校オモニ会の李蓮葉会長が発言。李会長は、3人の子どもが制度から除外された胸の痛みを話した後、「残念ながら上告棄却という結果によって裁判は終わってしまったが、失ったものは何もない」と前を向いた。
「なぜなら私たちの痛みに寄り添い、手を携えてくれる、よき理解者がそばで力になってくれているから。子どもたちは辛い時間を過ごしたと思うが、この8年間は決して無駄ではなかった。間違ったことに全力で立ち向かうこと。お互いが理解し尊重し合うこと。共に助け合い、相手を思いやること。ここで経験し学んだことが、この先の人生においてきっと力になると思う」
その上で、李会長は「あきらめていない」と強調。「少しずつ広がった連帯の輪によって、歪んでしまった法律を正すことができるよう、住みよい共生の道が開けるよう、ともに歩き続けましょう」。
教員を代表して、九州中高で生徒指導をしている金奈奈さんが登壇。金さんは10年前の高3当時、どうして朝鮮学校の訴えが受け入れられないのか、合理的な判断がなされないのか、その理由が知りたくて朝鮮大学校校への進学を決意した際、周囲から「自分を犠牲にしなくてもいい」と言われたと話した。
「私は犠牲という言葉が大嫌い。もし10年前の選択、そして今日までの人生が犠牲だったなら、いま私の手の中に溢れるものは何なのか。友人、恩師、仲間、同志、南の同胞たち、そして目の前にいる大切な生徒たち。闘うことが犠牲なら、いま私には何ひとつ残っていないはず。残るどころか溢れている人生を私は誇りたい」
金さんは、日本が朝鮮を植民地にした歴史は今も形を変えて続いている現実であり、私たち在日朝鮮人が的となっているとしながら、「立ち向かわなければいけない。私たちにできることがある。声を上げ続けること、私たちを示し続けること」と胸を張った。
「子どもたちの未来、夢と希望は必ず守らないといけない。子どもたちは未来を作るが、大人たちはその未来のために今をしっかりと守り抜かないといけない。この闘いの主力は私たち大人です」。確固とした声が会場に響いた。
福岡県日朝友好協会の上村和男事務局長は、2008年の協会発足以降、朝鮮民主主義人民共和国への訪問など、さまざまな友好交流を続けてきた経験についてのべ、「あちこちに輪が広がっている。この集会を機に、連帯の波が全国に広がっていくことを願う」と締めた。
民族教育の未来を考える・ネットワーク広島の村上敏代表は、昨年10月の控訴審で九州と広島がそれぞれ不当判決を受けたことで、両地域の関係者が連携して署名とハガキによる裁判所へのアピール行動を始めたと説明。
5月30日が1次集計の期日だったが、九州ではその直前に抜き打ち的に上告棄却が決定されたと悔しさをにじませた村上代表。広島では、九州での決定に対する抗議の意味も込めて、6月21日に約3万筆もの署名を提出したと報告した。
「この闘いに加えて頂きありがとうございます」「遅れてしまい、さらに署名数も少なくて申し訳ない」…。一人ひとりが集める数は少なくとも、日本各地からともに取り組みたい、闘いたいという気持ちで連帯してくれた人々がいたことに元気をもらったという。
「まだ闘いは終わっていない。仮に司法がすべて終わったとしてもこの闘いは終わらない。朝鮮学校がこれだけ差別された状態で放置してはいけない。今後も民族教育権を保障する取り組みを広げましょう。広島は今後も連携して闘います」(村上さん)
県議会議員、市議会議員もあいさつに立った(写真上は福岡県議会の渡辺美穂議員)。北九州市議会の小宮けい子議員(写真下)は元教員。北九州市教職員組合の一員として長年、朝鮮学校との交流も続けてきた。
日本の公立学校に勤務していた時、さまざまな書籍や天体望遠鏡など、学びを支える設備や環境が一つあることで、子どもたちには一つ先の未来、一つ先の興味が開けていくのだと実感したという小宮議員。「すべての子どもたちに豊かな教育が実現できるよう、いろんな場所で頑張っていきたい」と力を込めた。
次に、無償化連絡協議会の瑞木実さんが事務局長報告を行った。瑞木事務局長は「無償化裁判が終わっても、無償化闘争は終わりではない」との姿勢を改めて確認しながら、以下の4つの方向性を提示。
①「無償化弁護団」、「朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会」、「山口・福岡県内の五つの朝鮮学校を支援する会(五者会議)」の連携を強化して、無償化闘争を進める。
②直近の課題として幼保無償化実現の取り組みを強化する。
③「一条校」に準じた取り扱いを求める運動の再出発を進める。(最低限日本の私立学校並みの取り扱いをする要求運動)
―子どもの学びを保障する教育条件の再点検と行政への要求運動の展開
―地方自治体に対して補助金交付の再開及び充実の要求運動の強化。
④朝鮮学校を支援する会を中心とした民族教育を擁護する財政支援活動。
また、新たな無償化闘争を進める「心合わせ」の集会をいずれ開催する予定だと伝えた。
続いて集会アピール採択があった。
最後に恒例の、参加者たちによる「団結ガンバロー」が(団結ガンバローについては過去の日刊イオで紹介しています)。
「すべての子どもたちに学ぶ権利を保障するために、朝鮮学校への高校無償化が適用されるその日まで、私たちは団結してガンバロー!」。明るく前向きな声が一つになって会場を満たした。
上告棄却という結果を受け止め、すぐさま次の闘いへと舵を切った九州。前述したように、今後新たな運動体を組織し、引き続き権利の獲得を求めてさまざまな行動を展開していく予定だ。毎月第4木曜日に実施してきた街頭行動も継続される。(理)