完全ワンオペで2歳児の面倒を見ながら自宅でオンラインインタビュー取材を行ってみて
広告
昨年来の新型コロナウイルス禍で、社会的に浸透したリモートワーク。
「自宅でのオンライン会議の最中に子どもが乱入!」といったトラブルは「リモートワークあるある」の定番だろう。幼子を抱えて夫婦共働きの筆者だが、さいわいにもこれまでそのような経験はしたことがなかった。しかしつい先日、ついにそれと似たような経験をすることになってしまった。
9月下旬の某日、『あしたのジョー』や『おれは鉄兵』などの作品で有名な漫画家のちばてつやさんをzoomでインタビューしたときのこと。
平日の夕方に1時間の予定で取材アポを取った。オンライン取材は、時間帯や前後のスケジュールに応じて職場か自宅のどちらかを選んで行うことが多い。取材を終えてすぐ、2歳になる息子の保育園のお迎えに行けるよう、今回は自宅で行うことにした。
この日は出勤日だったため、約束の時間に合わせて会社を早退し、最寄駅から自宅へ。あと3分ほどで家に着こうかというタイミングで、手に持っていたスマートフォンが振動した。ディスプレイに表示されたのは息子が通う保育園の電話番号。
「オーマイガー!」
日中に保育園から保護者に電話がかかってくるのはよくない知らせと相場が決まっている。電話口の園の先生いわく、「〇〇くん、熱が出てなかなか下がらないので、早めのお迎えをお願いできますか」。
保育園からの連絡はまず妻のほうに行くことになっている。最近仕事がとみに忙しくなって携帯電話の着信を確認する余裕もない、とこぼしていたので妻には電話がつながらなかったのだろう。
すぐに迎えが来てくれるので園にとってはありがたいのだろうが、こちらにとっては少々困ったことになった。
「完全ワンオペで2歳児の面倒を見ながら自宅でオンラインインタビュー取材」というかなり難易度高めのミッション。さて、どうしたものか…。
息子を園から引き取って帰宅。インタビュー開始時間まであと30分。あれこれと考える時間すら与えられぬまま、約束の時間は刻一刻と迫っている。どうしようか、ではなく、やるしかない。なんとかして乗り切るのだ。
ダイニングテーブルでパソコンを開き、リモート取材の準備を整えてスタンバっていると、スタスタと近づいてくる息子。テーブルの上のパソコンに興味津々で触ろうとするのを制して、通じないとは知りつつ彼の目をじっと見ながら語りかける。
「アッパは今から大事な仕事があるんだ。その間、おとなしくいい子にしていられるかな」
これでおとなしくなるなら子育てなど楽勝だろう。
リビングにおもちゃを並べ、テレビをつけてYouTubeのお気に入り電車や車の映像を見せる。長時間一人で遊ぶにはまだ幼く、1時間ずっと静かにしていることは望み薄とわかっている。可能な限りの対策は講じた。あとは、先方に事情を説明して了承してもらうしかない。
やはり、と言うべきか、取材が始まってすぐ、息子が「構ってモード」に突入。「キャッキャ、キャッキャ」と楽しそうにそこらじゅうを歩き回り、仕事中の父親のもとに寄ってくる。モニター越しに子どもの騒々しい声が聞こえたのだろう。こちらが事情を説明する前にちばさんから、「子どもと一緒? 大変だね。こちらのことはあまり気にせずに、お子さんの面倒を見てあげて」と、こちらを気遣う言葉をかけていただいた。その気遣いがとてもありがたく、あたふたしていた気持ちが少し落ち着いた。
ここから奇跡が起こった。父親の願いが通じたのか、普段なら10分も落ち着いてパソコンの前に座れないほど手のかかる息子なのだが、この日に限っては比較的おとなしくしてくれたのだ。息子の面倒を見るためインタビューの途中で席を立ったのは2回ほど。たぶん、幼いながらに普段と違う父親の雰囲気を察して、「これは構ってもらえないな」とあきらめてくれたのかもしれない。なんにしろ、結果オーライだ。
インタビューは所定の1時間をめいっぱい使って何とか無事終了。先方に感謝の言葉をのべてミーティングルームを退出した後、思わず「ふぅ」と大きなため息がもれた。そして、いい子にしていてくれた息子をたまらなく愛おしく感じ、抱きしめた。
そんな苦労を経て取ったちばてつやさんのインタビュー記事は、15日に刷り上がるイオ11月号に掲載される。
乞うご期待を。(相)