【最終回】記者のアルバム online ver.6/世界自然遺産の案内人
広告
「記者のアルバム online」もこれが最終回となる。
最後は、出張最終日に取材した金紅綺さんを紹介したい。
名護市あたりの海沿いの道。小笠原諸島の海底火山噴火により、軽石が大量に漂着していた。
沖縄は、亜熱帯気候で、ヤンバルクイナをはじめとする固有種の生物が多い。金さんがガイドを務めるやんばるの森は、豊かな自然と生物多様性に優れていることで、今年7月に世界自然遺産に登録された。京都朝鮮中高級学校卒業後、沖縄県北部に位置するオクマ プライベートビーチ & リゾートで世界自然遺産のネイチャーガイドをしている金紅綺さん。金さんがこの地でネイチャーガイドを志した理由は、「やんばるの地に生息する、日本最大のムカデを見たかったから」。この職場一択だったという。
幼いころから生き物が大好きだった金さんにとって、好きなことに携わる毎日は「最高」のようだ。
朝、5時すぎに自然と目が覚め、小一時間サーフィンを楽しんで出勤するという。「毎日が楽しすぎて、さらに上の楽しさがないと、この仕事をやめられないかもしれないです。休日も山に入り、生き物を探したり読書をしたり。仕事という感覚がないですね」と金さん。うらやましい生活だ…。
「あー--!!!」の声に、なにがいるかもわからずシャッターを切ったのだが、なんと空飛ぶ宝石・カワセミがいたようだ。
ちなみにこの日は、李さんも休みだったので同行してくれた。
元気溌剌としていて、目標に向かって一寸の迷いもない金さん。最たる夢は、アフリカでレンジャーになること。京都朝高の卒業式の手紙朗読で、「必ずアフリカに行きます」と宣言した金さんは、その翌年、専門学校のプログラムでアフリカを訪れた。「絶対ここに戻る」と決めた金さんは現在、その夢を叶えるため、猟銃の免許を取り、英語とスワヒリ語も勉強中だという。
また、職業柄、船舶免許や、ジェットスキー免許も持っている。最近はショベルカーなどの重機免許を取ろうとしているという。理由は、「面白そうやから」(笑)。
とにかく実行力があり、ポジティブ、話していてこちらまでパワーをもらえる、そんな青年だった。
「自分は誇りを持って仕事をしているし、仕事以外にも、ビーチクリーンの団体を立ち上げました。最初は友達に声をかけ、3年かけて100人規模の団体に。毎月第2土曜日はゴミ拾いや、使い捨てストローを使わないなど、小さなことから環境保護に努めています。人に強要するつもりはないが、日本や世界の環境がこんなにも汚れ、気候変動が激しいことを伝えたいし、京都朝高で講義したいです」。
また、金さんは、高校無償化適用を求める署名をひとりで120筆も集めた。
「会社で説明して、社員が出退勤するところに置いてもらいました。近く過ごしている友人は、『高校として認可されていないの?』と聞いてくるので、そこから知ってもらう。とある従業員は、自宅に持ち帰り、家族の分まで署名を書いてくれました」
「日本社会に出て、在日朝鮮人ということで一度も嫌なことをされたことがないんです。会社でも『ホンギ』と呼ばれて、そしたらつい『イェ』って答えてしまうときがあります(笑)。それも認めてもらっています。沖縄の人は優しいし、他者を毛嫌いすることがない。自分も人見知りをしないので、『金紅綺です!在日です!』と自己紹介しています。韓国人とは絶対言いませんけどね(笑)。仲のいい人には、韓国人と在日がどう違うのか、説明したりします」
天真爛漫で、芯がしっかりしているなと感じた。つい、「好かれそうだね~」と言うと、「正直、そう思います(笑)」と笑う。
「そう思わないとやっていけませんよ。隣の友達と仲良くなれるなら、誰とでも仲良くなれる。自分が“嫌な奴”であることで、朝鮮人が嫌な奴だと思われたくないですね。唯一知っている在日朝鮮人が私であれば、『在日、いい子やで』となる可能性が高い。イメージも大切だと思います」
「同胞社会を離れたからこそ、同胞社会にどれだけ生かされてきたかを痛感しています。自分の活躍をもって、朝鮮学校に何か還元したい。あと、祖国が統一したら38度線で新しい生き物を探したいんですよ。軍事境界線は手つかずなはずなので、そこで微生物を採取したいです(笑)」。
とんでもなくパワフルな人に出会えた。出会いに感謝である。
この日同行していた李さんが空港まで送ってくれることに(地方の本部活動家さながら…)。
「普天間…通るかな…?飛行機間に合わないかな…?」
うじうじと提起すると、「間に合わせますよー!」と、普天間基地が見える公園に寄ってくれた(心から感謝)。
宜野湾市にある嘉数高台公園からは普天間基地が見える。この公園には、銃弾の跡や防空壕が残っている。
李さんのおかげで、今回諦めていたところに足を運ぶことができ、見るものすべて見ることができた。
李熙一さん、金紅綺さん、そして、白充弁護士ご家族や金賢玉先生も、本当にありがとうございました!(おわり)