「だから俺は感動したんだ」―九州中高で無償化弁護団のメンバーが講演
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2013年2月20日、文部科学省が高校無償化法の省令を改悪し、朝鮮学校を就学支援金の対象から完全に除外した。これを受けて毎年、「2.20アクション」と銘打って朝鮮学校関係者と同胞、日本市民を含めた支援団体によるさまざまな抗議行動が日本各地で行われてきた。
コロナ禍の今年も日本各地で声が上げられた。各アクションの内容はイオ4月号で取り上げているが、誌幅の関係で割愛した内容があるのでブログで紹介したい。九州朝鮮中高級学校で行われた「朝鮮学校無償化実現全国統一行動に連帯する福岡県民集会」での記念講演だ。
九州無償化弁護団のメンバーである安元隆治弁護士と金敏寛弁護士が登壇した。
安元弁護士は、「君たちはなぜ朝鮮学校に通うべきなのか? ―日本人・安元が感動したことのご紹介―」というタイトルで発表を行った。
弁護士登録の同期である金敏寛弁護士に誘われたことで、提訴準備段階である2013年から弁護団に参加した安元弁護士。08年に金弁護士と出会った当初は「外国の人なのに日本語上手やな」との感想が浮かぶほど、もともとは「朝鮮学校のことを何も知らなかった」と振り返る。
しかし裁判を通じて朝鮮学校に数多く足を運び、在日朝鮮人とも日常的に触れ合うようになって、これまでの無知や偏見に気づく。さらには朝鮮学校の唯一無二の価値を感じるようになったそうだ。
安元弁護士は、朝鮮学校のよさを「学校が、社会とのかかわりの中で存在している」点だとしながら、具体的な例として、①焼肉、②裁判、③本物の問いがある―を挙げた。以下が概要である。
①―朝鮮学校では地域の同胞や支援者、日本の市民たちが参加する焼肉が定期的に行われ、多くの人が出入りする。それだけでなく、学校や子どもたちのために大人が手助けをするといった豊かな交流が日常的に行われている。
②―無償化制度からの朝鮮学校除外は日本による最低のヘイト政策であり、当然のように権利の主張は必要だが、子どもたち自身にこの問題について考えさせ、また立ち上がった時には学校としてバックアップし、共に声を上げた。本物の権利主張の姿だと思う。
③―「在日朝鮮人とは?」という問いが学校内にあふれている。言葉、文化、歴史、さらに日本社会の中での情勢との向き合い方…。ただ学ぶだけでなく、それを通じて「自分とは何者か」という問いと常に向き合っている。社会の中での「個」を確立するための問い。そんな問い、俺は学校で受けたことがない。
安元弁護士は、かつての自身について「受験マシーンだった」と話す。テストで高い点数をとることに徹し、受験に合格することを目的とする勉強ばかりをこなしていた。
「人生で最も多感な時期に、受験マシーンとして時間を費やすことの不毛さを感じた。政治、歴史、芸術、流行など自分たちを取り巻く『社会』って面白い。あの時代の感性でもっと社会を知り、大人や友人たちと議論したかったが、現実はまるで鳥カゴのように社会から隔離されていた。もっと面白いことがあったはずなのに」
そうした後悔があったところで朝鮮学校を知った。社会から隔離される鳥カゴではなく、社会を意識し社会の中で存在している学校。受験勉強といったスケールの小さな学びではない本物の学び。それらを目の当たりにして深く感動したという。
また、無償化裁判が始まった頃、「朝鮮学校も日本の学校と同じ水準だ、差別するな」といった議論があったことに違和感を持ったことにも言及した。「日本人的な目線というか。さっきも言ったように、ここでやっているのは本当の学び。むしろ日本の学校や教育が本来目指すべき方向性、大きなヒントになることが朝鮮学校にはあると思う」。
昨年4月、「朝鮮学校を支える会・北九州」の新会長も引き受けた安元弁護士。今後も朝鮮学校を大いに注目し、支えていきたいとして講演を結んだ。
次に金弁護士が、約8年の裁判を終えた現在、考えていることを保護者たちに伝えた。金弁護士はまず、裁判闘争を経て得た重要な成果について、▼日本の人々や韓国・釜山の同胞など、朝鮮学校を初めて知り、惜しみない協力をくれる人々が増えたこと(「特に弁護団のメンバーたちは、今後も朝鮮学校や子どもたちを取り巻く問題が起きた時にはきっとすぐに動いてくれるだろう」)、▼オモニ会をはじめとする在日同胞たちによるさまざまな動きが生まれたこと―を挙げた。
続いて、「朝鮮学校で学ぶとはどういうことなのか」について言及。金弁護士は、目的と手段という言葉を用いながら、自身にとっての目的は「在日朝鮮人らしく生きていくこと」であり、その大切さを教えてくれたのが朝鮮学校だったと話す。
植民地時代から戦後まで、日本政府から一貫して「自分らしく生きていくこと」を否定され続けてきた在日朝鮮人。金弁護士はさまざまな学びの過程で、その否定に立ち向かうための手段として弁護士になることを選び取った。
「弁護士になることが目的ではなく、在日朝鮮人らしく生きていくことが目的だった。自分の目的が何かを知り、それを達成したいという気持ちを持ったから突破できたと思う」
一方で金弁護士は、子どもたちに将来の夢について聞くと「〇〇大学に行って××会社に就職すること」といった答えが返ってくることが少なくないとしながら、手段が目的化してしまっていると指摘。さらに保護者からもこうした考え方を感じることがあるとして、例に以下の言葉を挙げた。
「こんな時代にまだ朝鮮学校に通わせているのか」
「朝鮮学校を卒業したところでどうするのか」
金弁護士は、大人や保護者たちの中でも「良い大学や良い企業に就職すること」が目的になっているのではないかと話し、もちろんそれを否定するものではないとのべた上で、だからこそ朝鮮学校に通うことも一つの価値観であり、否定してはいけないのではないかと問いかけた。
加えて、相手の価値観や意見を尊重するという関係性を大人同士だけではなく、親と子どもの間でも大切にしなければいけないと話した。
最後に金弁護士は、02年に行われた「国連子ども特別総会」でのメッセージを紹介。
「あなたたちはわたしたちを未来と呼びます。けれどもわたしたちは『今』でもあるのです」―
この言葉に自分自身もハッとしたという金弁護士。「これからも子どもの『未来』を考えつつ、子どもの『今』にも耳を傾けながら、朝鮮学校でしか学ぶことのできないことを意識し、朝鮮学校の当事者としてその発展に関わっていきたい」と伝え、講演を終えた。(理)