今こそ、未来を語ろう
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2018年、「ウリ民族フォーラムin兵庫」を観覧した。練られた企画はどれも興味深く、また出演者たちの楽しそうな表情が印象的だった。
中でも、第1部の目玉企画である「プレゼンバトル 20年後の私の夢」では近年耳にすることのなかった、荒唐無稽とも思うほど底抜けに明るい言葉が並んだ。
「豪華客船による統一クルーズ」「新薬・不老不死の開発」「大島分会タワービル」「ウリハッキョの食堂に自動料理機の導入」「オモニ会入会特典にHERMESのバッグ」「県下にウリハッキョが30校、学生数1万人!」…
はじめはおかしそうに笑うだけだった観客たちも、ユーモアとロマン溢れる発表を聞き、次第に熱のこもった拍手を送っていた。
もれなく私も元気をもらいながら、翻って自分は最近、理想や夢を語っていただろうかと思った。例えばいま同じテーマで何か発表しなさいと言われたら、果たしてこんな自由な発想が浮かぶだろうか。
民族教育や在日朝鮮人を取り巻く環境は依然として厳しいが、目の前の課題に対処しつつも、その一つ向こうの未来を見据え、積極的な語りを重ねることで具体像を描くことも大切なのではないか。
そうしたことを語ることすら、考えることすら忘れていたかもしれない。そう気づかされた。
この気づきを何らかの形で改めてイオで紹介したい。そんな風に漠然とは考えながら、なかなか企画化できないままあっという間に何年も経ってしまっていた。
転機は昨年。イオ300号を記念して何かスペシャルな企画を…と考えている時、家族から「横浜FCの三浦知良選手をインタビューしたら」と言われた。
「いやいやいや…こんな有名な方が…」まで言葉が出たが、「無理でしょ」と言い切らなかったのは、兵庫フォーラムで得た気づきを思い出したからかもしれない。三浦選手とつながりのある同胞の協力を得た結果、なんと本当に実現したのである。
ああ、やっぱり自分たちで可能性を制限する必要はないんだ、もっと自由に夢や期待を描いてもいいんだ―、そうした実感を持てた。
それからもまた1年が経ったが、今回のイオ5月号でようやく当初の気持ちを一つの企画にできた。それがすでに告知した特集「今こそ、未来を語ろう」だ。
兵庫フォーラムにかかわった方々による座談会、成し遂げたい目標のために知識と思いを育み実践を積み重ねている同胞たち、子どもたちが未来を想像して描いた絵画作品、そして在日朝鮮人としての未来を志向するために必要な考え方。
これまでもっと聞いてみたかった、そしてこちらの期待を越える、たくさんの言葉が集まった。
特集の準備を通して改めて感じたのは、人の意識や物事の可能性など、そこに何が潜在しているかは、実際に働きかけてみないと分からないということだ。
また、どこで読んだかは忘れてしまったが、たしか何かの漫画に出てきた「ノミの法則」という話を思い出した。
ノミはもともとものすごい跳躍力を持っているが、小さな箱の中に閉じ込めると天井に頭がぶつかってしまうため箱の高さに合わせて跳ぶようになる。しばらく置いて箱をどかしても、もうその箱より高くは跳べなくなってしまうーという内容である。
※「ノミの法則」で検索するともう少し詳しい話がいろいろ出てきます
本当はもっと高く跳べるのに、一時的に外から押しつけられてしまったせいで限界を感じてしまったノミ。いつの間にかそれが自分の精一杯だと思わされてしまったノミ。
ノミと一緒にしてしまうのも少々どうかと思うが、何十年とあらゆる面で差別政策を受けている自分たちにも通ずる話だと感じた。
しかし、そのことに自覚的であれば、本当はまだまだ跳べるんだと信じて努力することができる。
今回の特集は、そういうことについて考える第一歩になればいいなと思っている。(理)
●月刊イオ5月号は4月18日(月)発売です。