小さな繋がりを紡ぐ―【書評】「新版 日本の中の外国人学校」/河かおる
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多様なルーツの外国人学校を描く
本書は、2006年に明石書店から出版された「日本の中の外国人学校」を大幅改訂した新版である。
新版 日本の中の外国人学校 – 株式会社 明石書店 (akashi.co.jp)
旧版と章構成は同じだが、第1章「ルポ 日本の中の外国人学校」はすべて2017~2018年に取材し月刊イオに連載されたものに変わっている。
第2章「提言 外国人の子どもに教育の権利を」も、旧版出版後の出来事や状況変化が大幅に書き加えられている。第3章「インタビュー 外国人学校と日本社会」もすべて新たなインタビューが収録されている。少し改訂する程度の一般的な「新版」というより、第2弾という感じだ。
「新版 日本の中の外国人学校」には、イオ編集部の記者が訪れた多様な形態、多様なルーツの外国人学校が在日朝鮮人の目線で描かれている。
第1章でルポされる外国人学校は、大きく4つのタイプに分けられていて、老舗の学校、最近開校した学校、生徒数数百人の各種学校、十数人の小さな「無認可」の学校、アフタースクール、フリースクールなど、多様な形態、多様なルーツの学校をイオ編集部の記者が訪れ、在日朝鮮人の目線で描いている。
また、日本の学校に通う外国人の子どもを取り巻く課題についても書かれており、外国人学校を主軸に据えながら、日本で暮らす多様な外国人の子どもの教育の現状と課題について包括的に理解できる。
2020年に同じ明石書店から出版された毎日新聞取材班「にほんでいきる」は、新聞協会賞、新聞労連ジャーナリズム大賞優秀賞を受賞した優れたルポルタージュではあるが、外国人学校はほとんど視野に入っていないし、歴史的な軸もない。その点、本書は歴史的な背景も含め、多種多様な現実を、バランス良く描いている好著だと思う。
私は2002年に滋賀県に移り住み、自分の子どもが小学校にあがった2004年頃から日本の学校で学ぶ外国人の子どもたちの現状に関心を持ち、また朝鮮学校だけでなくブラジル学校(いずれも本書で紹介)とも関わりを持つようになった。
ちょうど本書の旧版が月刊イオに連載されていた頃だ。当時は、総務省が多文化共生を推進し始めた頃でもあり、課題山積だがこれからは良くなるかもしれないという期待が多少あった。
しかし現実には、新版までの15年間、リーマンショック、コロナ禍、朝鮮学校にあっては無償化除外、補助金停止、ヘイト暴力事件など、外国人学校には繰り返しピンチが訪れた。
日本の学校の現状も「にほんでいきる」のような本が2020年に出るぐらいだから、問題だらけだ。新版からは、そんなピンチに直面しながらも、子どもたちの多様な学びの場を守り、維持発展させるための、関係者の諦めない努力と逞しさが伝わってくる。
そしてそれとは裏腹に、外国人の子どもをめぐる日本政府の対応の遅さ、無さ、もしくは退歩も浮き彫りになる。
2010年の高校無償化に外国人学校を含めたこと、2016年に教育機会確保法により「学校」外での多様な学びの機会確保を推進する根拠法ができたこと、2019年に「すべての子ども」を対象に幼保無償化が実施されたこと、これらは本来、画期的な前進と評価できるはずだった。しかしその度に不条理な「線引き」がなされ、朝鮮学校や各種学校が除外され、教育機会確保法も曖昧な努力義務規定に終わってしまった。
日本政府の線引きがもたらした”分断”
とりわけ深刻に感じるのは、こうした政府による「線引き」により、外国人学校間に分断が生じてしまうことだ。本書第2章でも書かれているように、1995年の阪神淡路大震災や2003年の大学入学資格問題を契機に外国人学校間の連携が深まり、2005~2009年には多民族共生教育フォーラムが毎年開催された。
しかし2019年の幼保無償化において、各種学校認可の外国人学校全体が除外になるという、連携した対応が切実に求められる状況下で、残念ながら連携は充分に発揮できなかった。少なくとも、幼保無償化をすべての外国人学校の子どもにも適用したいと署名活動に取り組んでみた立場からは、そのように感じた。
しかし連携が弱くなってしまったなら、再び強くすればいい。
私のいる滋賀県もそうであるように、地域レベルでの顔の見える繋がりから、連携の気運は再び起きつつある。何より、本書はその繋がり直しのプロセスでもあり、これから繋がりを生む種にもなるだろう。本書が、日本に暮らすすべての多様な人々を繋いでいくことを願う。
本書刊行後、滋賀県内のブラジル学校関係者に出会ったところ、他の学校のことも知ることができて嬉しいと喜んでいた。そして地域の人にも読んでほしいと地元の図書館にも早速リクエストしたという。
県内の外国人学校3校に加えて三日月知事まで登場する本であるからには、県内すべての公共図書館と学校図書室に備えられることを目指し、本書の普及活動をしようと思いついた。そんな風に、それぞれが、この本をきっかけに様々な場で小さな繋がり(イオ)を紡いで行く、その力が本書にはあると思う。(滋賀県立大学教員/朝鮮新報2022年4月4日付けから転載)