「『祖国へ帰れ』は典型的な差別言動」―崔江以子さんヘイトブログ訴訟第2回口頭弁論
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社会福祉法人・青丘社が運営する他文化交流施設「川崎市ふれあい館」の館長を務める在日朝鮮人女性・崔江以子さん(49、神奈川県川崎市在住)がインターネット上で4年以上にわたって匿名で差別投稿を繰り返され、精神的苦痛を受けたとして2021年11月18日、305万円の損害賠償を求めて茨城県在住の40代男性を訴えた訴訟の第2回口頭弁論が6月16日、横浜地裁川崎支部で開かれた。
訴状によると、男性は2016年6月14日、自身が運営するブログ「ハゲタカ鷲津政彦のブログ『愛する日本国を取り戻す!!』」にアップした文章で、川崎市内で行われたヘイトデモに抗議する崔さんについての記事を引用。「日本国は我々日本人のものであり、お前らのものじゃない!『外国人(在日コリアン)が住みよい社会』なんて、まっぴらごめんだし、そんな社会は作らせない。思い上がるのもいい加減にしろ、日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと書き込んだ。
崔さんは同年9月16日、法務省人権擁護局に人権侵犯事件として救済の申立を行い、同ブログを含めた2件のブログ記事に対して削除を依頼した。法務局はこの投稿が人権侵犯事案にあたると判断。請求を受けてブログ管理会社が10月に投稿を削除した。しかし男性は投稿が削除されたことで崔さんを逆恨みし、同年10月30日から2020年10月31日まで約4年にわたり、ブログやツイッターで「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などと崔さんを誹謗中傷する書き込みを繰り返した。
崔さん側は16年6月の投稿(「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」)が、ヘイトスピーチ解消法が定める「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」にあたると指摘。ブログ投稿削除の後に行われた男性の書き込みは名誉毀損にあたり、それぞれ精神的苦痛を受けたと主張している。
被告側は第2回口頭弁論に合わせて、同投稿は排斥目的でなく、ヘイトスピーチ解消法の差別的言動には当たらないなどと主張する反論書面を提出。崔さんが在日コリアンであることを理由に「帰れ」と投稿したわけではなく、「外国人の権利拡充を図るべきとの原告の考えに対する心情を表したもの」であり、「仮に差別的言動に該当したとしても、損害は発生しないか、極めて軽微」などと主張した。
口頭弁論後の報告集会で原告側弁護団の神原元弁護士は、被告側の主張の概要について説明しながら、原告側としては今後、被告側の反論について再反論する、差別的言動は不法行為にあたるということを学者の意見書などを通じて主張していきたいとのべた。
師岡康子弁護士も、「『祖国へ帰れ』はまさしく本邦外出身者に対して向けられる典型的な差別的言動で、日本に存在すること自体を根底から否定する、差別の象徴のような言動だ。これが相手にどれだけダメージを与えて、この社会を壊すのか、今回の裁判で認めさせたい。とりわけ、本邦外出身者が差別をされず社会から排除されない権利を人格権として明確に認めさせたい」と今回の裁判の意義について話した。
続いて、裁判の傍聴に駆けつけた在日同胞を中心に支援者たちが次々と発言した。
「解消法以降、街頭でのヘイトは減ったが、私たち在日がヘイトにさらされる脅威はさほど低減はしていないと感じている。ヘイトはいけないという理念と、実際にその被害にあっている在日の被害感情との乖離が非常に大きい。そのことに対して日本社会がどれほど目を向けようとしているのか。『祖国へ帰れ』は明らかにヘイトスピーチ解消法違反だが、それがだめなことだと規範化されていないことが問題だ」(コリアNGOセンター代表理事の郭辰雄さん)
「80年近くたってもいまだ祖父母たちが浴びせられたひどい言葉から私たちは逃れることができない現実がある。国に帰れというのは自分の祖父母、両親が経てきた歴史を踏みにじって、否定されるということ。次の世代に、差別のある社会を絶対に残してはいけない」(エッセイストの朴慶南さん)
「崔さんがたたかっている裁判の相手は目の前の被告ではなく、日本社会にずっとはびこっている差別感情であり、今回の裁判は日本社会の無知に対する挑戦だ」(「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉さん)
集会の最後に崔さんは、「差別は許されないという判決を得て、前に歩みを進めたい」とのべた。(相)