大好きだった絵本
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最近、仕事の一環で絵本を読んでいる。なんとなく内容を知っているようでいて思いもよらない展開になっていく様にびっくりしたり、初めて読む文章にどきどきしたり、朝鮮語の柔らかくリズム感ある口語文を味わったり。普段、自分から絵本を手に取ることはないのでとても新鮮だ。
ある程度読み進めて休憩していると、そういえば子どもの頃に大好きな絵本があったことを思い出した。ので、週末に図書館で借りてみた。
あいうえおうさま あさのあいさつ あくびをあんぐり ああおはよう―
絵本を開かなくても覚えていた文章だ。『あいうえおうさま』の魅力は、短い歌のようなテンポのいい文章。「あ」なら、上のようにその音から始まる単語が語呂よく並ぶ。これが五十音分あり、物の名前、感情、動詞、季節に関するものなどいろんな言葉が出てくる。
そして文章に沿ったイラストも味わい深い。ストーリーとは少しズレた登場人物やモチーフが散りばめられており、ふふっと笑ってしまう。自由な構図で、こちらまでのびのびした気持ちになれる。かわいい絵、寂しい絵、少し怖い絵など、めくるたびに感情移入して、子どもの頃は何度も何度も読み返した。
この本はコモブ(アボジの妹の夫)が買ってくれたものだ。経営者として忙しく働いていたコモブとは、年に1回会う機会があるかないか。それでも、会った時には目じりが垂れた柔和な笑顔でいつもかわいがってくれた。
買ってもらったのは私が小学校に上がるか上がらないかくらいの頃。「コマッスンミダ(ありがとう)」と言ったら、照れ隠しなのか「そんなこと言わなくていいんだよ」と少しそっけなく返された。この絵本を見るといつもその思い出がセットでよみがえる。
コモブは私が高級部の時に急病で亡くなってしまった。『あいうえおうさま』はコモブとの直接的な思い出が残っている唯一の物だと言える。そういう意味でも大好きな絵本だ。
もう1冊、好きな絵本は『ミッケ!』である。これは、精巧なジオラマを撮影した写真の中に隠されているさまざまなものを探していく「かくれんぼ絵本」。初版の年度を確認すると、ちょうど30年前(!)だった。
何歳くらいの頃に買ってもらったかは定かでないが、4歳下の弟とともに毎日飽きもせず夢中になって探していたのを覚えている。シリーズも豊富で、当時出版されていたものはほとんど揃えてもらった。
数年前に地元へ帰省した際、実家に行く前に一人暮らししている弟の家に寄ったのだが、ずっと実家で眠っていた『ミッケ!』シリーズがすべて本棚に収められていて笑ってしまった。
弟は今でも深夜まで血眼になって隠された宝物を探している…という訳ではないのだろう。家族と離れて暮らしていると、不意に実家で過ごした空気が懐かしくなる瞬間がある。特に使うわけではないけれど思い出の品を近くに置いておきたいんだという心境はよく分かる。
久しぶりに開いてみた。このように、ページいっぱいにミニチュアや小物がぎっしりと配置されている。このページのシチュエーションは「たな」。この他にも、「やねうらの おもちゃ」「すなはま」「パーティー」「にわ」「かげえ」など、計13の世界が広がる。
課題のものをすべて見つけた私たち姉弟は、お互いに自分が考えた問題を出し合って二度も三度もこの本を楽しんだ。
ページをめくりながら当時を思い出すとともに、色づかいやアイデアなど、新たに発見し感動することもたくさんあった。絵本は何歳になって出会ってもいいんだなと実感する。次に図書館へ行ったら絵本の棚もゆっくり見て回ろう。
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冒頭に「仕事の一環で絵本を読んでいる」と書いた。発刊は少し先だが、現在編集中の月刊イオ9月号では絵本のプレゼントページを企画している。その際、あらすじを紹介する必要があるため、ちまちまと読み進めているのだった。
掲載作品は9月号のお楽しみ。朝鮮半島に関する絵本10冊(日本語5冊、朝鮮語5冊)を各1名にプレゼントする予定だ。(理)