“純度100%の暗闇”へ
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夏期休暇中、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)」なるものを体験した。DIDとは、完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”で、日常生活のさまざまな事柄を体験するワークショップだ。
参加者は視覚障害者のアテンドを受け、白杖を頼りに進みながら感覚の可能性やコミュニケーションの大切さを認識する。1988年、ドイツの哲学博士の発案によって生まれ、世界50ヵ国以上で開催されてきたそうだ。
私は2019年に観た「エマの瞳」という映画にDIDが登場し興味を持った。パンフレットに内容の詳細と、日本では1999年11月に初開催されたという記述があったので直近の開催日時を調べてみるも、当時はすでに実施期間が終了して残念に思ったものだ。
しかし今年、夏期休暇を前にふとDIDのことを思い出し、試しに検索してみたところ、2020年8月、東京・竹芝に「対話の森®」という常設のDID体験型ミュージアムがオープンしていたことを知った。すかさず予約を取ったのは言うまでもない。
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当日の参加者は大人子ども合わせて8人。それぞれ初対面だ。アテンドは全盲の方で、扉の向こうに広がる真っ暗な空間とそこで活用する白杖(はくじょう)の持ち方や使い方について説明してくれた。全員の自己紹介を済ませ、気持ちの準備を整えていざ出発。
…
部屋へ入り扉が閉まると、本当にまったく何も見えず途端に不安になる。どうにか壁を見つけて手をつき、声を出し合って周囲に誰がいるか把握する。戸惑っている参加者たちの間をアテンドがするすると歩き回り、まだ聞いたばかりなのに、声で誰がどこにいるかを判断している。そのスピードに驚いた。
ここがどれくらい広い場所なのか、人や物にぶつかったりしないかと慎重になる。参加者同士、白杖や手で相手を確かめ声を掛け合っているうちに、自分たちもだんだんと声で判断できるようになってきた。移動するアテンドの声を追ってどうにか方向をつかみ、先へ進んでいく。
電車に乗り(使われなくなった車両を実際に置いているとのこと)、縁側から靴を脱いで人の家へ上がり、外に出て丸太の橋を渡り、ひらけた場所にあるベンチでお茶やジュースを飲む。何も見えない状況の中でアテンドの手を借り、周りと疎通を図りながらどうにかこれらすべてをこなした。普段いかに意識せず視覚に頼っているかを実感。体験の部屋を出ると90分が経っていた。
終了後はアテンドと参加者で感想を言い合って解散。みな、感覚が開かれていくとともに心も開かれていったようだった。
冒頭でのべた映画「エマの瞳」について、本誌2019年3月号に紹介記事を出したのだが、その中で以下のように書いた。
(登場人物のテオは)視覚障害者という出会ったことのない相手と街を歩きながら、これまで見えていなかった多くのことに気づかされる。エマと過ごすことで、自身の目に映るもの、発する言葉が変わっていくことを自覚するのだ。
DID参加後、これまでよりも点字ブロックや街の段差に目が行くようになった。参加して終わりではなく、終わった後も自分の中で視点が変わり続ける、私にとってはそんなきっかけをもらえる体験だった。受け取るものは人それぞれかもしれない。もう一度参加したらまた別のことを感じるかもしれない。
いい体験だったので引き続きいろいろと調べてみると、なんと子どもを対象に「5000人たいけん」というイベントを実施しているとのこと。学校・団体向けプログラムがあり、申し込みをすれば現地で無料体験が可能だ(オンラインもあり)。詳細は以下のサイトから。気になる方はぜひチェックを。(理)
●対話の森5000人たいけん→https://kodomo5000.dialogue.or.jp
●体験を申し込む→https://kodomo5000.dialogue.or.jp/apply_onsite