ウトロ放火事件裁判の判決が確定、これから私たちがすべきこと
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京都地裁で被告人に懲役4年の実刑判決が下された京都ウトロ放火事件裁判の判決が確定した。
昨年7月から8月にかけて、在日朝鮮人が多く住む京都府宇治市伊勢田町のウトロ地区の建物や愛知県名古屋市の在日本大韓民国民団愛知県本部、韓国学校に放火したなどとして、非現住建造物等放火、器物損壊などの罪に問われた有本匠吾被告人(23)は8月30日、京都地裁で懲役4年の実刑判決を受けた。被告人と検察側双方が控訴期限の9月13日までに控訴しなかったため、実刑が確定した。
「懲役4年という量刑を聞いても、胸がすっきりしない、晴れない。今回の犯行が本人にとってどうしようもない利害関係に基づくやむをえない動機で行われたというよりは、ネットに氾濫する歪曲された情報、デマ、そういったものに踊らされて22歳の若者が自らの人生を棒に振るような犯罪を犯してしまった。こういったことをどうしたらなくしていけるのか」。
判決言い渡し後の記者会見で、一般社団法人ウトロ民間基金財団の郭辰雄理事長が語っていた言葉だが、判決に接した時、私も同様の思いを抱いた。それは判決が確定した今でも変わらない。この間、有本匠吾という人物が発してきた言葉の薄っぺらさ、陳腐さと実際の犯行の悪質さとの途方もない落差に愕然とし、暗澹たる気持ちになる。
「ヘイトクライムはメッセージ犯罪である」。この間、何度も接してきた言葉だ。マイノリティである在日朝鮮人に対して、お前たちはここにいてはいけないんだというメッセージを、マジョリティの日本人に対しては、ここまでやっても許されるというメッセージを発する―。今回の事件は典型的なヘイトクライムだが、そのヘイトの刃は取材して記事を書く私の心身も容赦なくえぐってくる。
ヘイトクライムの悪質性については、さる9月4日に行われたシンポジウム「ウトロ放火事件から見る社会からの『排除と孤立』」の趣旨文で端的にまとめられていたので、以下に一部引用する。
ヘイトクライムは、個人の法益を侵害・危険にさらすだけではなく、日本で生活する朝鮮人の生存権の否定、つまり対等な人間として生きる権利を否定します。ヘイトクライムは、単に一個人に向けられるものではなく、被害者が属するコミュニティや集団を狙って行われるものです。そのため、被害者が属するコミュニティに属する人たちは、誰もが被害者になり得ます。つまりヘイトクライムは、朝鮮半島にルーツのある人々に対して、この社会では排除されるべき対象であるというメッセージを送るものです。したがってヘイトクライムは、朝鮮半島にルーツのある人々とそのコミュニティにとっては、直接の攻撃を受けずとも、それ自体が脅迫的行為となります。ヘイトクライムを許容する社会では、特定の属性を持つ人々が、人格権・生存権を否定されながら生きつづけざるを得ない状況に置かれることになります。
ヘイトクライムは、特定の属性をもつ人々を集団的に排除することを求めることから、私たちの社会の民主主義を切り崩すことにもなります。ヘイトクライムは、民主主義社会における根本基盤である対等で平等に生きることを否定するのです。それゆえ、ヘイトクライムは、個人にとってだけでなく、社会にとって危険な犯罪でもあります。
「被告⼈を特殊で未熟な⼀個⼈として切り捨てるのではなく、⽇本のレイシズムの⼟壌が⽣み出した存在として位置づけ、その⼟壌の⽅の改善へと結びつけていく必要がある」。同シンポジウムにおける同志社大学教授の板垣竜太さんの発言だが、非常に重要な指摘だと思う。
イオは次号11月号で「ヘイトを許さない社会へ」(仮題)という特集を企画している。こうご期待。(相)