父の本棚
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先日、用事があって実家を訪れた。実家へ行くと、本来の用事を済ますかたわら、6年前に亡くなった父親の書斎を少しずつ片づけるのが恒例となっている。
新聞の切り抜きや資料類が入った段ボールを開けて中身を整理していると、ある冊子が目に留まった。
「재일조선인 신문 잡지 편람`(在日朝鮮人新聞、雑誌便覧)」。編集・執筆は조선대학교 신문연구소조(朝鮮大学校新聞研究サークル)、発行年月日は1975年12月となっている。
目次を抜き出してみる。
1.解放前の新聞、雑誌発刊状況
2.新聞、雑誌便覧
3.解放後の新聞、雑誌年表
4.付録
[1]1955~6年当時の総聯各級下部組織機関紙一覧
[2]解放後から総聯結成以前まで発刊された同人誌
[3]1947年8月現在の在日本朝鮮文化団体連合会の傘下団体だった新聞社、出版社一覧
まえがきには、冊子をつくった目的について、「在日朝鮮人運動の裏面史でもある在日同胞の精力的な出版報道活動の足跡を振り返り、それを正確に記録に残すこと」とある。
建設通信、高麗文芸、教同ニュース、教育研究、群衆、科学と技術、高麗文化、女盟時報、峰火、産技調査月報、星友、少年の旗、新朝鮮、オリニ通信、前衛隊、朝鮮映画、朝鮮学術通報、青年会議、平和と教育…。わずか1号で廃刊となったもの、当局の弾圧によって停刊・廃刊となったもの、期間限定で発刊されたもの、そして現在まで発行が続けられているもの―。初めて聞く名前も多い。「こんなメディアもあったのか!」と驚くことしきりだった。
昔はインターネットなどという便利なツールはなかった。紙の出版物が重要なメディアの役割を果たしていたのだろう。いま自分が携わっている仕事につながる歴史を、先輩方の仕事の一端を垣間見ることができた。
それにしても、父の書斎をほじくり回すとさまざまな発見がある。
7割くらいは漢文で書かれた中国や朝鮮関連の歴史書や文学作品でチンプンカンプンだったが、残り3割は日本語や朝鮮語の書籍で私にもなんとか読めた。SF、推理小説、古典、戦記モノ…ヴァン・ダインもポーもクリスティもチャンドラーも、ハインラインもアシモフもクラークもブラッドベリも、三国志も水滸伝も、ノモンハンもインパールも独ソ戦も岩波新書の青版も父の本棚から知った。
父の本棚から広がった読書体験は自分の学業や仕事にはあまり役に立たなかった。でも、それはたいした問題ではない。勉強や仕事のためではない、自分の知らないジャンルの本をちょっと背伸びして手にして、新しい世界への扉を開く、そんな読書の楽しさを知ることができたのには自分の生育環境にも一因があると思っている。
さて、そんな父の書斎も主を失ってそろそろ丸6年が経とうとする。膨大な本の数々をどう処分し、または活かしていくか。整理が遅々として進んでいないのが目下の悩みの種だ。(相)