なぜ市民は警察に排除されたのか―『ヤジと民主主義』を読んで
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1月号の書評の原稿を書くために『ヤジと民主主義』(北海道放送報道部 発行:ころから)という本を読んだ。面白い本だった。
本の内容を紹介したい。
2019年7月の札幌、参議院議員選挙で街頭演説する安倍首相にヤジを飛ばした聴衆を警察が強制的に排除するという事件が起こった。排除されたのは少なくとも9人だった。
この事件を取材し本を執筆したのは北海道放送の二人の記者。この事件のことはうっすらと覚えているが細かな内容を知らなかったがこの本で詳しい内容を知ることができた。
安倍首相に対してのヤジは「安倍やめろ、帰れ」というもので、ヤジを飛ばさず「増税反対」のプラカードを掲げただけの人も排除されている。
ヤジを飛ばすのは当然の権利だし自由なはずだ。警察側は、演説を聞く人たちに迷惑がかかる、小競り合いが起こりそうだった、といった理由で自分たちの行動を正当化する。
小競り合いが起こりそうなら、起こった時に双方の間に入って止めればよいだけの話だ。また安倍支持のプラカードを掲げている人は排除しない。警察は排除した後、その人たちをずっと付け回し監視を続けた。
この事件は裁判にまで発展していく。
本書は事件の詳細、裁判の経緯、道警元幹部へのインタビューなどで構成され、道警の排除がいかに不当なものなのかを明らかにしていく。
このような事件は札幌だけでなく、さいたま市などでも起こっている。
本書はこの事件だけでなく、沖縄の基地や検察庁法改正問題、治安維持法があった戦前の社会との共通点、記者クラブ制度などのジャーナリズムの問題など、さまざまな現在の日本社会の問題にまで言及していて、なぜ排除が起こったのか、その社会的な背景も描いていく。
今年3月25日の国家賠償請求訴訟裁判の札幌地裁一審判決は、「原告らの表現の自由は、警察官らによって侵害されたというべきである」と、排除された人たち原告の勝利に終わり警察に対し88万円の支払いを命じた。
記者たちの思いは「おかしいことはおかしいと言う」というシンプルなものだ。
いろいろなことを考えさせられる本だった。(k)
※この本の元となった北海道放送のドキュメンタリー番組がいまもYou Tube上にアップされているので見ることができる。
HBCテレビ『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』2020年4月26日放送