2022年の10冊
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新年1回目のエントリは、「私が選ぶ2022年の10冊」。ここ数年、年末の恒例となっていた「今年の映画、本・私的ベスト10」だが、昨年は順番の関係で掲載できないまま2022年が終わってしまった。22年に出版された本(日本語書籍に限定)の中で面白かった本、印象深かった本を選んだ。映画ベスト10は、紹介できるほど作品を観ていないということで、今回はパス。今年末にはぜひ書けるよう、たくさん観たいと思う。
●『歴史のなかの朝鮮籍』(鄭栄桓著、以文社)
「朝鮮籍」とは何か―。戦後日本の在日朝鮮人政策の不条理を象徴する、このこのあいまいかつ複雑で厄介な名称がなぜ、どのようにして生まれ、今日まで続いているのか。在日朝鮮人は「朝鮮籍」をどのように受け止めてきたのか。500ページを超える大著だが、「朝鮮籍」は在日朝鮮人という存在を知るうえで必須のテーマだ。
●『ウトロ ここで生き、ここで死ぬ』(中村一成著、三一書房)
筆者が20年以上にわたって京都の在日朝鮮人集住地域・ウトロの人びとから聞き取りを行い、ウトロに生きる在日コリアンの苦難の歴史を描き出す。住民たちの不屈の闘いの歴史に胸が熱くなる。
●『フェミニズムってなんですか』(清水晶子著、文藝春秋)
フェミニズムとは何か―。著者はこの問いを、「フェミニズムは何をするのか」というかたちに置きなおす。女性が女性であることによって差別や抑圧を受ける社会、女性たちの尊厳や権利や安全を軽んじる文化を変革し、女性たちの生の可能性を広げようとするフェミニズム。入門書として大変すぐれていると感じた。
●『韓国文学の中心にあるもの』(斎藤真理子著、イースト・プレス)
日本でもベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』の翻訳を手掛けるなど韓国文学の翻訳の第一人者として、日本での韓国文学ブームを牽引している著者による現代韓国文学ガイド。韓国社会・歴史を紐解く時代背景の解説、日本との関わりを掘り下げることで、他の類書とは一線を画す内容になっている。
●『文にあたる』(牟田都子著、亜紀書房)
フリーの校正者である著者のエッセイ。誤字脱字を拾い、事実関係の正誤を徹底的に確かめる。校正という仕事の奥深さを知る。同業者として「わかる、わかる」と何度もうなずくと同時に、新聞、雑誌、本の出版に大きな役割を担う校正・校閲の仕事の知られざる一面についても知ることができた。
●『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』(ロビン・ディアンジェロ著、甘糟智子訳、明石書店)
米国の社会学者である著者が、善意に潜む無意識の差別を暴く。日本における民族的マイノリティである在日朝鮮人である私にとっても、本書は男性、健常者、異性愛者という自身が持つマジョリティ特権と向き合わなくてはならないことを示唆してくれる。同じ著者による『ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』もおすすめ。
●『爆弾』(呉勝浩著、講談社)
スズキタゴサクと名乗る正体不明の男が仕掛けた連続爆破テロを防ぐべく、スズキと警察が心理戦を繰り広げるサスペンス。主人公スズキのキャラクターが強烈なインパクト。ページをくくる手が止まらない。
●『リバー』(奥田英朗著、集英社)
群馬県と栃木県の間を流れる渡良瀬川の河川敷で女性の死体が発見される。10年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口。犯人は誰なのか―。群像劇&犯罪小説。面白くて一気読みした。
●『入管問題とは何か 終わらない〈密室の人権侵害〉』(鈴木江理子・児玉晃一編著、〇明石書店)
スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管の収容施設で死亡した事件などを通じて、入管収容施設の暴力性がたびたび報道で取り上げられるようになった。入管収容施設はいつ、どのようにしてできたのか。これまでどんなことが起き、支援者はいかに向き合ってきたのか。誰がどのように苦しんでいるのか。どうすれば現状を変えられるのか。入管問題を多面的に検証した一冊。
●『極夜行前』(角幡唯介著、文春文庫)
太陽の昇らない冬の北極を一匹の犬とともに旅をし、4カ月ぶりに太陽を見るという空前絶後の冒険を描いた『極夜行』。興奮を覚えながらこの本を読んだのが2018年のこと。探検家でありノンフィクション作家でもある著者の手による本書は、その『極夜行』で描かれた冒険の準備過程を記したもの。出版自体は2019年だが、文庫化に際してリストに挙げた。
(相)