金剛山歌劇団公演のSS席
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6月11日、金剛山歌劇団 2024年アンサンブル公演「道(길)」を観覧した。開演ぎりぎりに会場へ行ったため、着席して間もなくオーケストラ担当の団員たちが舞台前に現れ、定位置についた。女性団員はシックな黒いワンピースで衣装を統一している。すると後ろからこんな会話が聞こえてきた。
「腕の部分が透けてる、シースルーだわ」
「シースルーでいいのよ。じゃないと喪服に見えちゃう」
「ハッハッハッハ」
長年の友人だろうか。明るいオルシン(お年寄り)の喋り声だ。逐一感想を言い合いながら公演を見るタイプなのだろう。(これはいい席に座ったぞ)と思い、記憶できる限りメモして後日ブログに書こう、と決めた。
公演は第1部と第2部に分かれており、間に休憩が設けられている。ノートやペンを持ち合わせていなかったため、印象的な会話を必死に記憶し、1部の会話は休憩の間に、2部の会話は公演が終わってから急いでスマホアプリに打ち込んだ。以下、いくつか紹介したい。
まずはオープニング「道」。在日朝鮮人が歩んできた歴史がスクリーンに映されていく。万景峰号の映像が流れると、後ろのオルシンの一人が「懐かしいね~」と呟いていた。なんてことのない感想だが、その奥にあるオルシンの人生が垣間見えるようだった。
女声重唱「りんごの木を植えました」、イントロが始まると「なんか聴いたことある」。歌が始まってしばらくしたら「涙出ちゃう」。そのうち片方のオルシンが歌に合わせてハミングまで始め(もう一人にたしなめられていた)、本当にのびのび観覧しているのだなと微笑ましく耳をすませた。
ほかにも舞踊の演目では「きれいね~」、舞踊手が回転する場面で「うわ~あらららら目がまわる~」。
また別の舞踊演目は、舞踊手たちが鳥の動きを再現する内容だったのだが、すかさず「鶴みたい」「あ、白鳥かアッハハ…」「え? 鶴じゃないの?」という声が。歌唱もついている舞踊で、歌詞を見ると갈매기(かもめ)という単語が出てきたのでさすがに笑ってしまった。
歌詞に気づけていなかったのだろう。第1部終了後、後ろのオルシンたちは「あれ鶴だよねえ?」「白鳥じゃない?」と、しばらく鶴・白鳥を連呼し、笑い声を上げながらトイレへ向かっていった。
第2部では、チャンセナプのロングブレスに「まだ? えっすごいすごい〜ウワァァァーー!!」とあどけない感動をあらわにし、「チャンゴの舞」ではしみじみと「いや~最高」と唸る。
そしてフィナーレの「農楽舞」。このときは大げさではなく会場中から大歓声が送られ、その熱気に心打たれた。同胞みんなで喜び、声を上げている、そこに身を浸せることは純粋にうれしいことなのだと実感した。
正直、公演に誘われた瞬間は「仕事を早く切り上げて行かないとだめだし、どうしよう、行かなくてもいいかな…」と生活に流されそうになったのだが、やはり歌劇団の公演を見ると毎回「本当に良かった」と感じるのだ。
1年に一回でも、しっかり民族芸術に触れる時間をこれからは意識的に設けていきたい。そして数十年後も変わらず足を運び、次は私も友人や家族と泣いたり笑ったりしながら感想を言い合いたい。(理)