山道での出会い
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馬がいる町で育った。休みの日、父が運転する車に乗って少し遠くの市まで遊びに行くときには決まって窓の外を眺めた。牧場がいくつもあり、茶色や白、大きいのから仔馬まで、何頭もの馬が現れては景色とともに流れていく。
幼いころは乗馬体験やホーストレッキングもよくさせてもらった。目の前に馬の頭があり、ぱっか、ぱっか、とリズミカルに揺れる特別な視点。まっすぐのびる道を進み、木立の間に入っていく。馬の背の上で感じる風が好きだった。
馬と言えば他にも忘れられないエピソードがある。2021年、取材で淡路島へ行ったときのこと。丘の上にある県立公園がスケジュール最後の取材場所だった。地図アプリによると、最寄りのバス停から公園までは徒歩で約30分。そもそも車で行く場所らしい。公共交通機関はない。
しかし節約が身についており、タクシーに乗るという選択肢は浮かばない。幸い時間はたっぷりあったため、マップが示す点線に従って歩くことに。しばらく進んで察したが、そこは完全な山道だった。次第に自然が深くなり、不安が増していく。
神隠しにあったらどうしよう。
冗談ではなく、8割方は起こりうると信じていた。だって「神隠し」という言葉が存在するくらいだし。伝承だって多い。人間ひとりくらい隠すなんて本当にたやすいことなのではないか—―。
いちど考えると歯止めがきかなくなり、静かに恐怖が満ちてくる。本気でやばいかもしれない、消えるかもしれない。しかし叫んだり走ったりしたらそれこそ終わってしまうような気がした。もうどうにもできない、と動悸がピークに達した瞬間、後ろからやってくる音があった。
ぱっか、ぱっか。
振り向くと、人を乗せた馬がそこにいた。3頭並んでいた。虚を突かれ、呆気にとられる。一方で(助かった!)と分かり、心底から安心し座り込みそうになった。
そんな私を意にも介さず、馬たちは一定のリズムで横を通り過ぎていく。引き離されないように軽く駆けながら、揺れるしっぽを追いかけるうち、私も無事に公園についたのだった。
スマホで検索してみると、なんとその道はホーストレッキングのコースだった。淡路島に馬がいるイメージはなかったので新鮮だった。ここも馬がいる町だったのか。先に知っておけば…! 節約云々の前に、迷わず利用していただろう。
ピンチの瞬間に現れた馬は、まさに救世主に見えたのだった。
ちなみに、公園からの帰りもタクシーには乗らなかったが、山道ではなく普通の国道沿いに歩いていけば元の場所に戻れることに気づいた(つまり行きもこっちから登れば良かったのだ)。地図アプリはなぜか不便な裏道の方を案内しがちだということも学んだ。(理)