『架橋』を読む
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『架橋』を読んだ。「在日朝鮮人作家を読む会」が発行している機関雑誌である。同会は1977年の立ち上げ以降、コロナ禍前までは毎月欠かさず例会を続けてきたそう。例会と並行しながら制作する『架橋』は、前号から4年空いての刊行だった。
同誌には、小説、詩、エッセイ、活動報告などが収録されている。作家の黄英治さんは「七月八日、猛暑日」という短編を寄稿。これは2022年夏に起こった安倍首相襲撃事件をベースにした小説だ。
暴力を目の当たりにしつつも、犯人が「在日」ではなかったことで安堵してしまう―。当時、自身もイオ編集部の事務所でこの一報に触れながら、同僚と共有した不安や当惑がよみがえってきた。
「この事件で日本人が抱いた深い恐怖と、あたしらが在日がわかち持った恐怖には、きっと、共有できるもの、共通なものがほとんどないだろうという、孤立感?」
作中にはこのような台詞があった。確かに、この小説を読む意味は、朝鮮半島にルーツのある人とそうではない人でまったく変わってくるだろうと思った。
また、後半に収録されていたエッセイ「なぜ在日朝鮮人文学を読むのか?」も興味深かった。東京にある二松学舎大学で在日朝鮮人文学を教えている宮沢剛さんが、タイトルの問いに沿って、パレスチナ問題、「群馬の森」朝鮮人犠牲者追悼碑撤去問題などとも絡めながら筆を進めている。
歴史修正主義者たちのやり口が解像度高く記述されており、「荒唐無稽」「むちゃくちゃ」などといった非難だけでは済ませられない怖さを感じる。一方で、宮沢さんの授業を受けた学生たちの反応にほのかな希望も覚えた。
他にも読み応えのあるテキストばかり。気になる方はぜひ以下お問い合わせを。(理)
制作発売:(株)あるむ
電話:052-332-0861
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