車のなかでの自己紹介
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わが居住支部に新しい委員長がやって来る。その知らせを聞いた瞬間(よかった)と安堵して、自分は専任不在の状況をそれなりに心もとなく思っていたのだなと遅ればせながら自覚した。
新しい委員長は支部新年会で就任のあいさつをした。はきはきとした前向きな抱負を聞きながら、委員長の経歴や人となりに興味を抱いた。私は人見知りだが、他人のことを知るのは好きである。
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出張の際、基本的に一番最初に顔を合わせるのがその地方の本部委員長や支部委員長、それに準ずるイルクンの方だ。アクセスしやすい場合は本部や支部へ直接伺い、車がないと不便な場合は先方みずから駅まで迎えに来てくださる。
初めてお会いする方だと、移動中の車内や応接室などで、取材の段取りよりも先にしばしの自己紹介タイムに入る。
もともとの出身地(現地である場合もあれば全然違う地方の場合もある)、現地で生まれたとしたら昔の思い出や同胞社会の変遷、地方出身だとしたらここに至るまでの経緯や経歴、その他にも趣味、関心ごと、日課…。いわゆる個人史とプロフィールを聞くのが楽しかった。
個人史からは、昔はそんなことがあったのかというような、同胞社会の歴史の一端が垣間見えることがある。プロフィールは、意外な一面を知れることがままあって飽きない。馬が好きで、休みの日には夫婦で馬を見にいくという方。実は占いをかじっているという方。日本と朝鮮半島の歴史にものすごく詳しい方。
ほかにも、長きにわたる単身赴任を通して確立した生活様式、地元の日本人名士との間に築き上げたコネクションなど面白い話がたくさんあった。
それだけで一本の記事になるような内容もあるが、本部・支部委員長やイルクンの方々はあくまでも現地コーディネーター的な役割なので、実際はこうした話が誌面に載ることはほとんどない。私の記憶にだけ、その方の印象とともに刻みつけられるのである。
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このブログでしっかり書いたことはなかったが、私は現在イオの専任記者ではなく、業務委託という形で編集部から月ごとに仕事をいただいている。ごくまれに東京近郊で取材をすることはあっても、出張に行くことはない。
日々、新しい場所へ行き、新しい人と出会い、その方だけができる話に耳を傾ける。それらを仕事として経験させてもらえる。そんな職業はなかなか無いなと、現場を離れてみて改めて実感している。
そんななか、久しぶりに目にした「初対面の支部委員長」。その空気がさまざまな出張先で感じた新鮮さと似ており、ふとかつての時間が恋しくなったのだった。(理)