家の鍵が突然開かなくなった話
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少し前のブログでもこんなことを書いたが、どうやらほろ酔いの夜には何かが起こりやすいようだ。
最近のこと。仕事がらみの食事会を終えて少し遅い時間の帰宅となった。
ドアの前に立って、もはや無意識レベルでいつもの鍵開け動作をした。
詳細は書けないが、家の鍵は電子タイプのもので、金属をガチャガチャと回すものではない。ピッと開けてスッとドアを開ける、そんな感じだ。
が、作動しない。
何度と挑戦してもピッとならないし、しまいにはけたたましい音が鳴り、ブチっとフリーズした。この後も数十回と鍵開けに挑んだが意味はなく、一気に絶望の淵に追いやられた。
どうしよう、困った…。
ここ数日、酷く寝不足だった。それに冷蔵庫には翌日朝が消費期限の食材もあった。絶対に家に帰りたかったし馴染みの部屋で横になりたかった。
管理会社は10時から17時までしか電話はつながらない。
スマホで鍵屋を検索し、藁にも縋る思いで出張手配した。

まさにこんな気持ちであった
オペレーターに状況や住所、連絡先、名前を伝え、指定された時間まで待つことに。
コンビニやスーパーに寄ろうとも思ったが特別買いたいものもなく(だってドアの向こうの冷蔵庫には消費期限が迫るプリンがあるんだから!)、スマホはバッテリー消費を避けるため極力触らないようにした。読みかけの本もドアの向こうだ。近くの猫様方もお出かけのもようで、待ちぼうけ…。
家族には報告し、万が一鍵を開けられないことも想定し近くに住む友人や親しい人たちに事情は説明しておくとした。
ここ数日、日中は温かい日がつづいたものの、夜は寒い。近くの道を行ったり来たりで身体を動かして、少しでも体温を上げようと努めた。

このようなタイプの鍵、ではない
そうして待つこと1時間。
いかにも業務用の普通自動車に乗って、ついに現れた鍵屋。ナンバープレートを見ると、それはそれは家からは遠い場所のもので、申し訳なさやありがたさが募った。
さて問題はここから。
鍵の状態をチェックしたあと、首を捻る鍵屋。あれこれ調べた末に、なんと二桁の〇〇万円近い見積もりを提示されたのだ。
!?
簡単に説明するとこうだ。
私の家の鍵は最近のものの中でも非常に防犯性が高いもので、ドアスコープから機械を入れて操作をし解錠するか、鍵自体を壊すしかないと。そしてその鍵(メーカー)自体の単価が高額なため上記のような見積もりになるというのだ。
極めつけは今回のケースだと管理会社に事後報告・清算を要求しても借り手の責任として自己負担になるかもしれないと言われたことだった。
さすがに動揺した。だが一秒でも早く家の中に入りたい。でも何か違う気がする。いや、何かは分からないけれど絶対に違う。
「ちょっと考えさせてください」なんか言って、実家の父に電話をかけた。鍵屋から言われた話をそのまま伝えた瞬間、受話器から怒号に近い大声がはち切れる。
「〇〇万円!?!?!?」
続いて受話器の向こうの声は母に替わった。父と同じような大声がエントランス(というほどの場所では決してないが)中に響き渡る。※ちなみにスピーカーにはしていない。
「〇〇万円!?!?!?」
受話器から漏れる、というか大音量で飛び交う中高年夫婦の怒り交じりの声に肩をすくめ、一生懸命別の方法を探っているようすの鍵屋。
すると…
なんともあっけなく、もはやドアを触ることもなく開錠に成功したのだ。
鍵屋到着から40分ほどだった。あれこれ操作をしたのち、無事うちの鍵は元の調子を取り戻したのだった。
支払も、出張費と点検費、深夜割増まで合わせて一般的な相場額だけで済んだ。
先に断っておくが、今回のブログでは別に鍵屋の批判をしたいわけではない。
この一件が、いわゆるドアインザフェイス※のテクニックで(ドアだけに…)最初に莫大な料金を提示して後から別の価格帯を提示することで少しでも高値を支払わせるといった商法によるものなのか、単なる鍵屋のミスなのか、最悪のケースを事前に伝えるというマニュアルがあってのことなのか私には分からない。
ただあの極限の状況の中で、もし誰にも相談していなかったら…と思うと血の気が引く。実際、一瞬思ってしまったからだ。最悪二桁万円を支払ったって、家に入れたら良い、だなんて。
瞬時に冷静さを取り戻させてくれた両親に感謝だ。そしてSOSを受け止めてくれた友人知人たちの存在。万が一のことがあっても行く場所があるから大丈夫だと心の片隅に安心感があったのも本当にありがたい。
こんな風に対処できたのも、朝鮮新報時代を含め満8年間の取材過程で被ったあらゆるイレギュラーやハプニングが、自分を強くしてくれたからかもしれない。
そんなことを思いつつ、着いて3時間ぶりに入れた家で、至福の睡眠時間を堪能したのだった。
それでもやはりこの出費と体力と時間の消耗は痛かった…。貴重な経験と気づきを買えたんだと自分に言い聞かせ、メンタルを保っている今日この頃。まだ管理会社との事後のやり取りが残っているが、なんとかなりそうだ、と思っている。
※行動心理学のテクニックで、相手に最初の過大な要求を断らせてから、本命の交渉にあたる方法。
(鳳)