特集:朝鮮八道料理紀行
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南北に長い朝鮮半島は、北部と南部では気候に大きな差があり、山間地帯の多い北部は畑作が主で、平野の多い南部地方では米作がなされてきた。また、三面が海に囲まれていることから海の幸に恵まれている。朝鮮では各地方ごとに食材を活かした特色ある料理が生まれ、今日まで伝わってきた。地方料理は、その土地の気候とも密接に関係しており、冬の長い北部は南部に比べて味付けは薄く、南に下るほど辛さが増し、調味料や塩辛を多く使う。食事のもてなし方も、地方ごとの特徴があっておもしろい。在日同胞の出身地である南部を中心に朝鮮半島に伝わる地方料理を紹介したい。
※八道とは、李氏朝鮮時代にとられた地域区分で、咸鏡、平安、黄海、江原、京畿、忠清、慶尚、全羅道が属する。
慶尚道
朝鮮東海と南海に囲まれ、海の幸をふんだんに
朝鮮東海と南海に囲まれた慶尚南北道は、気候も暖かくのどかで、水産物が多くとれる。また、洛東江が肥沃な農地を作り、南部の他地方に比べても稲、麦、大豆、キビなどが多く生産されるという。魚(물고기)を고기(肉)と呼ぶほど、海の幸を使った料理が多いのが慶尚道料理の特徴だ。しょうゆ味のスープはカタクチイワシや貝を多用する。
馬山発祥のアグ(アンコウ)チム、釜山発祥の東莱パジョンが有名で、五色のナムルをあしらったチンジュピビムパプはファバン(花飯)の別名もあり、ユッケをのせたことから広く知られるようになった。牛肉の辛いスープは大邱地方のものでテグタン、タロタンと呼ばれ、暑い夏に汗をかきながらいただく。
料理の味付けは塩辛く、トウガラシもたくさん入れる。英陽地方のトウガラシは皮が厚く、辛さの中に甘みがあると定評がある。8月初旬に英陽の山々は真っ赤に染まるという。
済州道
素材ごとの持ち味を生かしたシンプルな料理
朝鮮半島の南端に位置し1年中気候が温暖な済州道では、アマダイなどの海産物が豊富だ。そのほかにも、シイタケやワラビなどの山菜も島の特産物だ。真面目で素朴な気質の済州道の人たちは、薬味を控えめに素材の持ち味を生かしたシンプルな料理を好んだという。
新鮮でおいしい水に恵まれた済州道ならではの料理といえるのが、ムルフェという料理。野菜と海産物をチョジャンで甘辛く味付け、そこに水を注ぐというもので、汁まで残さずいただくのが済州道流だ。済州道の人たちの食生活に欠かせなかったのがチャリとよばれる小さな鯛(スズメダイ)。さっぱりとした味わいが特徴で普段からよく食べられていたことから、チャリのムルフェが有名だ。
また地元でよく採れるモムという海藻を加えたモムククというスープも、島の珍味だ。冠婚葬祭の時に豚をまるごと一頭つぶして料理するのだが、その際に豚からとったスープが使われたという。
全羅道
豊かな食材で発達した多彩な料理
朝鮮半島の中で最も食文化が発達した地域だと言われるのが全羅道。肥沃な平野でとれた米や麦などの穀物に、山の幸、海の幸も豊富で、豊かな食材を利用したさまざまな料理が作られ発展してきた。
全羅道の料理は、季節ごとの旬の食材を使い、見た目にも鮮やかな料理である。味付けは上品でダシのきいた味が特徴、日本でいうと京料理に似ているとも言われる。
料理方法も多彩だ。
「残してこそ料理」だと言われるほど多くの料理を食卓に並べるのが習慣で、定食を頼むと20種類以上のお皿で埋め尽くされる。
料理で特に有名なのが、ここでも紹介した全州ピビンパ。色とりどりのナムルなど豊かな食材を使ったピビンパは、全羅道料理の特徴を最もよく表している料理で、全州で発祥し、いまや世界に広がっている。その他にも、特産品のモヤシを使ったモヤシクッパ、贅沢に海産物をたくさん入れて辛めに仕上げた全羅道キムチ、各種海産物の塩辛など、有名な料理がたくさんある。
月刊誌イオでの特集掲載内容
- 慶尚道 朝鮮西海と南海に囲まれ、海の幸をふんだんに
キンメダイの煮付け/東莱パジョン/アサリのスープ - 済州道 素材ごとの持ち味を生かしたシンプルな料理
モムのスープ/ムルフェ/済州島風チャプチェ - 全羅道 豊かな食材で発達した多彩な料理
トッカルビ/カルビタン/全州ピビンパ - 南部地方 京畿道・ポサムキムチ/江原道・朝鮮風イカ飯/忠清道・カボチャ粥
- 北部地方 平安道・緑豆チヂミ/咸鏡道・白キムチ、明太スープ
- 1世が語る オモニの味
- あれほどおいしいチャルトクは食べたことがない 安忠直さん
- オモニの味は、今でも超えられない 申貞玉さん
写真:HAJI(全羅道・忠清道)、崔麗淳